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晴天のスーパーアース?

-低質量の太陽系外惑星GJ3470bの大気を初めて観測-

 福井暁彦研究員(国立天文台)、成田憲保特任助教(国立天文台)、大学院生の黒崎健二さん(東京大学)らを中心とする研究チームは、国立天文台・岡山天体物理観測所の2台の望遠鏡を使用して、かに座にあるGJ3470bと呼ばれるスーパーアース(巨大地球型太陽系外惑星・注1)の大気を世界で初めて観測しました。この惑星は質量が地球の約14倍しかなく、これまでに大気が調査された太陽系外惑星としては二番目に軽い天体です。観測データの解析結果から、この惑星には厚い雲が無く、晴れている可能性が高いことが明らかとなりました。

スーパーアースGJ3470bの想像図

図1. スーパーアースGJ3470bの想像図。惑星(手前)と主星(背後)の大きさは実際の比率と等しく描かれている。惑星が晴れた大気を持っているため、主星の光の一部が惑星の周囲の大気を透過して、赤いリングとして見える。大気が赤く見えるのは、夕焼けと同じ現象(レイリー散乱)が起こるため。(クレジット:国立天文台)

トランジット太陽系外惑星

 太陽系外惑星(系外惑星)の半径を測定することはとても難しく、系外惑星の質量のみが調べられていて半径がわからないという場合がほとんどです。しかし、たまたま系外惑星が主星(親星)の手前を通過する「トランジット現象」を起こすような特別な軌道をもっていると、惑星の半径を見積もることができます。惑星がトランジットをする時、惑星の大きさに応じて主星がわずかに減光するからです。その減光率を高精度に測定することで惑星の半径を測るのです。

GJ3470bのトランジットの観測データ

図2. 国立天文台・岡山天体物理観測所の2台の望遠鏡で得られた、スーパーアースGJ3470bのトランジットの観測データ。横軸は時刻、縦軸は主星の明るさを表す。一番上のプロット(赤)は188cm望遠鏡で得られた近赤外線のデータ、下の3つのプロット(橙、黄、緑)は50cmMITSuME望遠鏡で得られた可視光のデータ。惑星がトランジット中に主星からの光を一部さえぎるため、2時間近くにわたり主星の明るさが約0.6%暗くなっている。(クレジット:国立天文台)

2台の望遠鏡でスーパーアースの大気を観測

 研究チームは、岡山天体物理観測所の188cm反射望遠鏡に搭載された近赤外撮像・分光装置ISLE(アイル)と、同観測所の50cmMITSuME(三つ目)望遠鏡に搭載された3台の可視光観測カメラを同時に使用して、系外惑星GJ3470bのトランジットを高精度に観測しました(図2)。そして、可視光から近赤外線にかけて4つの色(波長帯)で主星の減光率を測定し、惑星の半径を色ごとに見積もりました。その結果、研究者らは近赤外線(波長1.3ミクロン)で測定した惑星の半径が可視光で測定した半径に比べて約6%小さいことを発見しました(図3)。

測定されたGJ3470bの色ごとの半径

図3. 測定されたGJ3470bの色(観測波長)ごとの半径(主星と惑星の半径比として表示)。丸のデータは今回の観測で測定されたもので、丸の色は図2と対応。三角のデータは海外の研究チームがスピッツァー宇宙望遠鏡を使って観測した赤外線のデータ。青い点線は雲が無い大気を持つ場合の理論線を表し、黒の破線(水平線)は厚い雲に覆われていた場合の理論線を表す。今回の観測から、近赤外線(赤)で見た惑星の半径が可視光(橙、黄、緑)で見た惑星の半径に比べて約6%小さいことが分かった。(クレジット:国立天文台)

 この色による惑星の半径の違いは、惑星が持つ大気の特徴を反映していると考えられます。惑星が晴れた大気を持っていると、主星の光が惑星の大気を透過する際、特定の波長の光は大気分子に吸収されたり散乱されたりするため、観測波長によって主星の減光率、つまり惑星の見かけの半径に違いが生じます(図4)。しかし、もし仮に惑星の大気が厚い雲で覆われているとすると、どの波長の光も同程度に散乱されるため、色による半径の違いは見られないはずです。そのため、この惑星は少なくとも厚い雲には覆われていないということが言えます。

トランジット惑星の大気を観測する原理の模式図

図4. トランジット惑星の大気を観測する原理の模式図。惑星がトランジットをする際、主星からの光の一部は惑星にさえぎられて観測者へ届かないが、そのうちの一部は惑星の大気を透過して観測者へと届く。このとき、大気の透過率は観測波長によって異なるため、見かけ上の惑星の大きさが観測波長によって異なる。(クレジット:国立天文台)

 通常、スーパーアースのトランジットによる主星の減光率は非常に小さいため、スーパーアースの大気を観測することは非常に困難です。しかし、GJ3470bの場合は主星のサイズが小さいという特徴があり、主星に対する惑星のサイズが相対的に大きくなります。そのおかげで、大気の観測が可能になる程度に大きな主星の減光が見られます(注2)。さらに、この主星は可視光ではやや暗いのですが、近赤外線で非常に明るいという性質を持っています。そのため、高性能の近赤外撮像・分光装置ISLEを用いることで、近赤外線において非常に高い精度でスーパーアースの半径を測定する事ができ、今回の成果に繋がりました。

今後の展望

 研究チームは、今後、すばる望遠鏡などの大型望遠鏡で、GJ3470bをより詳細に観測したいと考えています。「GJ3470bは主星からわずか0.036天文単位(地球と太陽の距離の約28分の1)という主星に近い軌道を、約3.3日という短い周期で公転しています。そのような惑星がどのように形成したかは未だ良く分かっていません。GJ3470bは厚い雲に覆われていない可能性が高いので、惑星の雲に邪魔されずに大気中の成分を検出できるはずです。大気中に水蒸気などの低温度で氷になる物質が検出できれば、この惑星はもともと、氷が存在出来る主星から遠く離れた軌道(数天文単位)で形成され、その後、軌道が主星の近くへ移動したと考えられます。一方、もしそのような物質が大気中に見つからない場合は、この惑星は主星の近くで形成された可能性が高いと考えられます。GJ3470bの大気成分の調査によって、スーパーアースがどのように形成されたかを解明するための重要なヒントが得られると期待しています。」と福井研究員は語ります。

 今回の観測成果を得るにあたっては、晴天に恵まれる日が多いという岡山県の気候条件も味方をしてくれました。惑星の半径を精度良く測定するためには、惑星がトランジットを起こす数時間にわたって快晴が続く必要があります。「晴れの国」岡山だからこそ発見できた「晴れの惑星」。岡山の素晴らしい自然環境が今回の成果につながりました。研究者らは今後も岡山天体物理観測所の望遠鏡を使用して観測を行い、新たな観測成果に繋げたいと考えています。

 この研究は、国立天文台、東京大学、東京工業大学、総合研究大学院大学、京都大学、広島大学の共同で行なわれました。

注1
スーパーアースの定義は明確ではありませんが、およそ地球と海王星(約17倍地球質量)との中間の質量をもつ太陽系外惑星を指します。GJ3470bは主星に近い軌道を公転する天王星質量(約14倍地球質量)の惑星であることから、ホット・ウラヌス(灼熱天王星)とも呼ばれています。
注2
大気の詳細観測が可能なスーパーアースは、GJ3470bを含めてまだ2個しか知られていません。もう一つはGJ1214bという惑星で、地球の約6.6倍の質量を持っています。

論文掲載誌

この研究は米国天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」オンライン版2013年6月20日号に掲載されました。
Optical-to-Near-Infrared Simultaneous Observations for the Hot Uranus GJ3470b: A Hint for Cloud-free Atmosphere
著者:福井暁彦、成田憲保、黒崎健二、生駒大洋、他14名

(2013年6月公開)

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