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おうし座に巨大惑星を発見

おうし座ヒアデス星団の巨大惑星の想像図

国立天文台神戸大東海大東工大などの研究グループは、岡山天体物理観測所188cm反射望遠鏡高分散分光器HIDES(ハイデス)を用いて、おうし座の散開星団ヒアデスにある巨星に巨大惑星を発見しました。これまでに約200個の太陽系外惑星が見つかっていますが、散開星団での発見は世界で初めてです。系外惑星を見つけるには、恒星の微小な速度のふらつきを高精度で観測する必要があります。日本国内でそれが可能なのは岡山天体物理観測所のHIDESだけです。

惑星形成の起源に迫る、「散開星団」の惑星探し

どのような恒星にどのような惑星がいつ頃できるのか――これは、私達の太陽系だけではなく、第2の太陽系、第2の地球の存在とも関わる天文学の最重要テーマの一つです。1995年に初めて太陽以外の恒星で惑星(以下、系外惑星)が発見され、それ以来現在までに200個を超える多種多様な系外惑星が発見されてきましたが、残念ながら私達はこの問題に対する答えを未だ持ち合わせていません。それは、これまで惑星が見つかった恒星は生まれた場所も育った環境も様々で、現在の姿からは年齢や質量といった重要な性質を正確に知ることが難しいからです。

この答えに迫る上で鍵となるのが「散開星団」(注釈)と呼ばれる恒星の集団です。星団に属する恒星は同じ場所で同じ時期に誕生したとみなせるため、恒星の性質が精度よく求められ、恒星と惑星の性質の関係をはっきりと示すことができます。しかし、散開星団は一般に地球から遠くて暗いため、これまであまり惑星探しが行われておらず、惑星も見つかっていませんでした。

注釈

恒星は一般に集団で誕生すると考えられています。この生まれて間もない数十から数百の若い恒星が比較的まばらに集まっているのが散開星団です。代表的なものに、日本では「すばる」の名で有名なおうし座プレアデス星団(年齢約1億年、地球からの距離408光年)や、同じくおうし座のヒアデス星団(約6億年、149光年)、かに座のプレセペ星団(約6億年、515光年)などがあります。

おうし座ヒアデス星団内の巨星に巨大惑星を発見

おうし座ヒアデス星団(図1)は、年齢約6億年、地球からの距離は149光年で、地球に最も近い散開星団です。今回、本研究グループは、この星団に属する恒星の一つである、おうし座イプシロン(ε)星に巨大惑星を発見しました。

おうし座ヒアデス星団

図1:おうし座ヒアデス星団

ヒアデス星団:おうし座の顔にあたる位置で「V」の字形に集まっている恒星の集団。おうし座の一等星アルデバラン(おうし座α星)はたまたま同じ方向に見えるだけで、この星団には属していません。今回惑星が見つかったのはイプシロン(ε)星(見かけの明るさ3.5等)です。(左:株式会社アストロアーツのステラナビゲータを用いて作成)(右:国立天文台岡山天体物理観測所提供)

この星は、太陽の約3倍の質量をもち、進化によって太陽の約14倍の大きさに膨らんでいる巨星です。本研究グループは、2003年から約3年間この星を観測し続け、国立天文台岡山天体物理観測所岡山天体物理観測所188cm反射望遠鏡高分散分光器HIDES(ハイデス)を用いて、周期約595日、振幅約96メートル毎秒の速度変化を検出しました(図2)。これは、中心星から約2天文単位の距離を木星の約8倍という非常に大きな質量をもつ巨大惑星が回っていて、この惑星の引力を受けて中心星がふらついていることを示しています。

おうし座イプシロン星で検出された速度変化の様子と惑星のイメージ

図2:速度変化の様子と惑星のイメージ

おうし座イプシロン星で検出された速度変化の様子(左図)。赤丸が実際の観測点で、青の実線は観測点を最もよく再現する惑星軌道から予想される理論曲線です。星の速度が周期約595日、振幅約96メートル毎秒で変化しています。これは、木星の約8倍の質量をもつ惑星が中心星から約2天文単位の距離を回っていることを示しています(右図;イメージ図 岡山天体物理観測所提供)。

今回の発見により、太陽の約3倍の重さをもつ恒星では、約6億歳という若さで巨大惑星が存在することが明確に示されました(太陽は約46億歳)。このように、年齢、質量が精度よく決定された恒星で惑星が見つかったのは初めてのことです。

実はヒアデス星団では、過去にも別のグループによって惑星探しが行われたことがあります。このときは同星団に属する約100個の太陽質量程度より軽い恒星が対象となりましたが、惑星は見つかりませんでした。今回、重い恒星で大質量の巨大惑星が発見されたことにより、恒星の重さによって周りにできる惑星の性質に違いがある可能性が示されました。大質量の巨大惑星は、重い恒星の周りでできる確率が高いのかもしれません。本研究グループが太陽のような恒星だけでなく巨星にも着目していたことが、今回の重要な発見をもたらしました。

今後、年齢や性質の異なる様々な散開星団で惑星探しが進むことによって、恒星と惑星の関係がより詳しく明らかになり、惑星形成の起源に迫ることができると期待されます。今回の発見は、その第一歩を記したと言えるでしょう。

この研究論文は、米国アストロフィジカル・ジャーナル誌5月20日号に掲載される予定です。

参考

本研究グループは、太陽の1.5~5倍程度の比較的質量の大きい恒星の周りの惑星系を調べる目的で、2001年から国立天文台岡山天体物理観測所の188cm反射望遠鏡を用いて約300個の巨星を対象に惑星探しを行っています。2003年には、きりん座にある巨星に日本初の系外惑星を発見しました。今回おうし座で新たに発見された惑星は、本研究グループが発見した2つ目の惑星となります。

研究グループメンバー

氏名 所属 職名
佐藤文衛 国立天文台
岡山天体物理観測所
研究員
泉浦秀行 国立天文台
岡山天体物理観測所
主任研究員
豊田英里 神戸大学大学院
自然科学研究科
博士課程2年
神戸栄治 国立天文台
岡山天体物理観測所
研究支援員
竹田洋一 国立天文台
光赤外研究部
助教授
増田盛治 徳島県立あすたむらんど
子ども科学館
大宮正士 東海大学大学院
理学研究科
修士課程2年
村多大輔 神戸大学大学院
自然科学研究科
修士課程2年
伊藤洋一 神戸大学大学院
自然科学研究科
助手
安藤裕康 国立天文台
光赤外研究部
教授
吉田道利 国立天文台
岡山天体物理観測所
助教授(所長)
生駒大洋 東京工業大学大学院
理工学研究科
助手
小久保英一郎 国立天文台
理論研究部
助教授
井田茂 東京工業大学大学院
理工学研究科
教授

2007年3月発表

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