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近傍の赤色矮星をまわる新たなスーパーアースを発見

 東京工業大学、国立天文台、アストロバイオロジーセンターを中心とする国際研究チームは、惑星が主星の手前を通過するトランジット(食)現象を利用して、地球から約170光年先に地球の2.3倍の大きさをもつ太陽系外惑星、「K2-28b」(図1)を発見しました。惑星の発見には、岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡と最新の観測装置MuSCAT(マスカット)を始めとする、日本の望遠鏡と観測装置が重要な役割を果たしました。
 K2-28bは地球と海王星の中間のサイズをもつ「スーパーアース(注1)」に分類され、太陽よりも2,500度ほど温度の低い赤色矮星のまわりを公転しています。このような赤色矮星まわりのトランジット・スーパーアースは発見数がまだ少なく、太陽系の比較的近傍(200光年以内)で発見されたものとしては世界で2例目(注2)となります。しかも、この惑星は2009年に発見された1例目の惑星、「GJ1214b」と惑星のサイズや温度環境が驚くほど良く似ています。GJ1214bはこれまでに唯一大気の性質が詳細に調べられたスーパーアースであり(注3)、大気の高層に厚い雲がかかっている可能性が高いことが分かっています。今後GJ1214bの「双子」とも呼べるK2-28bの大気の性質を詳細に調べることで、GJ1214bにみられる厚い雲の存在がスーパーアースに普遍的な性質かどうかを明らかに出来ると期待されます。

惑星のサイズの比較

図1. 惑星のサイズの比較。K2-28bは地球と海王星の中間のサイズをもち、2009年に発見されたスーパーアースGJ1214bと近いサイズをもつ。GJ1214bの表面の模様は想像をもとに描かれているが、これまでの研究から大気の高層に厚い雲が存在する可能性が高いことが分かっている。K2-28bの大気の性質はまだ調べられていないが、将来の大型望遠鏡を用いた観測から詳細調査が可能である。(クレジット:国立天文台)

ケプラー衛星による第二期探索(K2ミッション)

 K2-28bはケプラー宇宙望遠鏡による第二期探索(K2ミッション)で得られた観測データの中から発見されました。ケプラー宇宙望遠鏡はNASAが2009年に打ち上げたトランジット惑星探索専用の望遠鏡で、多数の星の明るさを高精度にモニターすることで、惑星がトランジットをする際に見られる星の減光を探索しています。同望遠鏡は当初、白鳥座方向の1つの観測領域のみを集中的に探索していましたが(第一期探索)、2013年に望遠鏡の姿勢制御装置の一部が故障したため、それまでの同一方向のみの探索が続けられなくなりました。そこで、ケプラー宇宙望遠鏡は2014年から戦略を変え、多数の領域を短期間(約80日)ずつ観測する新しい探索、K2ミッションを開始しました。K2ミッションでは、第一期探索では発見が難しかった、太陽系近傍の惑星系をより多く発見出来るという利点があります。
 今回研究チームは、K2ミッションで観測されたみずがめ座方向の探索領域の公開データを解析し、惑星候補K2-28bを発見しました(図2)。データ解析の結果、もしこの惑星候補が本物であれば、赤色矮星をまわるスーパーアースというまだ発見数が少ないタイプの惑星であることが分かりました。しかし、このようなケプラー宇宙望遠鏡の観測データから発見される惑星候補の中には、どうしても一定の割合(1~2割程度)で惑星ではない「偽物」が紛れ込んでしまいます。そのため、確実に本物の惑星であるということを言い切るためには、地上の望遠鏡を用いた惑星の「発見確認観測」が必要不可欠となります。

ケプラー宇宙望遠鏡で観測されたK2-28bのトランジット

図2. ケプラー宇宙望遠鏡で観測されたK2-28bのトランジット。30回分のトランジットのデータを重ねて表示している。惑星のトランジットにより主星の見かけの明るさが約0.6%減光している。(クレジット:国立天文台)

地上望遠鏡による惑星の発見確認観測

 惑星候補の中に偽物が紛れ込んでしまう一番大きな要因は、食連星と呼ばれる星同士が食を起こす天体の混入です。本来、食連星が起こす星の減光の大きさ(減光率)は惑星のトランジットに比べて非常に大きくなるため容易に見分けがつきますが、たまたま食連星と別の星が同一視線方向に重なっていたりすると、食連星の本来の減光が弱められ、惑星のトランジットと見間違えてしまいます。
 K2-28bが食連星による偽検出かどうかを見分けるために、研究チームは今回2種類の発見確認観測を実施しました。一つは「多色トランジット観測」、もう一つは「高解像度観測」です。多色トランジット観測では、惑星候補のトランジットを複数の異なる波長帯で観測し、波長ごとの減光率の違いを調べます。もし惑星候補が本物の惑星であった場合、トランジットの減光率はどの波長でもほぼ一定になりますが、もし食連星による偽検出であった場合は、観測される減光率が波長によって大きく異なります。研究チームは今回、岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡と可視光多色カメラMuSCAT、および南アフリカ天文台に日本が所有する口径1.4mのIRSF望遠鏡と赤外線多色カメラSIRIUSを使用して、可視光から近赤外域にかけて合計5つの波長帯でトランジットを観測しました。その結果、トランジットの減光率が観測波長によらずほぼ一定となり、偽検出の可能性が低いことが確かめられました(図3)。
 一方の高解像度観測では、主星を高い空間分解能で撮像し、主星の近くに偽検出となる別の星が紛れ込んでいなかどうかを直接調べます。今回研究チームは、ハワイの口径8.2mすばる望遠鏡と補償光学と呼ばれる地球大気のゆらぎを高精度に抑制する装置を利用して、高解像度の観測を実施しました。その結果、K2-28bの主星の近くには偽検出を引き起こすような別の星は存在しないことが確かめられ(図4)、K2-28bは正式に惑星として認められました。

地上の望遠鏡で得られた多色トランジット観測のデータ

図3. 地上の望遠鏡で得られた多色トランジット観測のデータ。左は岡山観測所の188cm望遠鏡と可視光多色カメラMuSCATで得られたデータ、右は南アフリカの1.4m IRSF望遠鏡と赤外線多色カメラSIRIUSで得られたデータを示す。トランジットの減光率はどの波長帯でも誤差の範囲内で一致しており、食連星による偽検出の可能性が低いことが確かめられた。(クレジット:国立天文台)

すばる望遠鏡と補償光学装置を用いて得られた高解像度画像

図4. すばる望遠鏡と補償光学装置を用いて得られた高解像度画像。K2-28bの主星(画像の中心の明るい天体)の近くに偽検出を引き起こすような別の星は存在しないことが確かめられた。(クレジット:国立天文台)

双子のスーパーアース

 今回発見された惑星K2-28bは、地球の2.3倍の大きさをもち、地球と海王星の中間のサイズをもつ「スーパーアース」に分類されます。スーパーアースは太陽系には存在しないタイプの惑星ですが、近年の研究から銀河系には非常に豊富に存在することが明らかとなりました。一方、K2-28bは摂氏約2900度の低温度の赤色矮星のまわりを公転しています(ちなみに、太陽の温度は摂氏約5400度)。赤色矮星は銀河系で最もありふれたタイプの星ですが、小さくて暗いために惑星探索はまだあまり進んでおらず、K2-28bは太陽系近傍の赤色矮星をまわるトランジット・スーパーアースとして2例目の惑星となります。
 また、K2-28bは赤色矮星をまわるトランジット・スーパーアースとして最初に発見された惑星、「GJ1214b」にサイズや温度環境が非常に良く似ています(表1)。GJ1214bではこれまでに大気の性質が詳細に調べられ、大気の高層に厚い雲がかかっている可能性が高いことが明らかにされてきました。しかし、大気の性質が詳細に調べられたスーパーアースは他にまだ無く、厚い雲の存在がスーパーアースに一般的にみられる性質かどうかはまだよく分かっていません。そこで、今後GJ1214bの双子とも呼べるK2-28bの大気の性質を詳細に調べる事で、スーパーアースがもつ大気の一般的な性質を明らかに出来ると期待されています(注4)。

2惑星の物理量の比較

表1. 惑星の物理量の比較。K2-28bとGJ1214bはともに半径が地球の2倍強のスーパーアースである。主星の温度はK2-28bのほうがGJ1214bよりも若干高いが、GJ1214bのほうが若干主星に近いため、惑星が主星から受ける熱量は2つの惑星でほぼ同じである。なお、どちらの惑星も地球に比べて16〜17倍の熱量を主星から受けており、高温の環境下にあるため、生命は存在しないと考えられる。

(注1) 「スーパーアース」の明確な定義はまだありません。ここでは地球と海王星(地球の約4倍)の中間の大きさをもつ惑星のことをスーパーアースと呼んでいます。

(注2) 地球とほぼ同じサイズをもつ「地球型惑星」は除いています。ちなみに、2015年11月に太陽系近傍の赤色矮星をまわる地球の1.1倍サイズのトランジット惑星(GJ1132b)の発見が報告されています。

(注3) 関連研究: http://www.subarutelescope.org/Pressrelease/2013/09/03/j_index.html

(注4) K2-28bは地球からの距離がGJ1214b(約40光年)に比べて4倍ほど遠いため(約170光年)、既存の望遠鏡では大気の観測は容易ではありませんが、現在建設中のTMT(30メートル望遠鏡)などの将来の大型望遠鏡を用いれば、大気を詳細に調べる事が出来ると期待されます。

この研究の論文は米国天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」電子版に2016年3月16日に掲載されました。
タイトル:The K2-ESPRINT Project III: A Close-in Super-Earth around a Metal-rich Mid-M Dwarf
著者:平野照幸(東京工業大学)、福井暁彦(国立天文台)、成田憲保(アストロバイオロジーセンター/国立天文台)、他18名
論文へのリンク:
ApJ掲載版 : http://iopscience.iop.org/article/10.3847/0004-637X/820/1/41/meta
arXiv(無料論文投稿サイト)版 : http://arxiv.org/abs/1511.08508

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