コンテンツのイメージ

金属過剰を示す太陽型星周りに5つの系外惑星検出

 国立天文台、東京工業大学、イェール大学を中心とするグループが岡山天体物理観測所(以下、岡山観測所)の188cm望遠鏡とハワイの すばる望遠鏡・ケック望遠鏡を用いた観測により、HD 1605, HD 1666, HD 67087 という金属量過剰を示す3つの太陽型星の周りに合計で5つの系外惑星を発見しました。
 最初の観測は2004年から始まり、実に10年近くにわたりデータを集めたことで、最長で周期約2400日、つまり6年以上もの長い周期を持つ惑星の検出に成功しました。こうした公転周期が長い、すなわち中心星から遠く離れた惑星はまだ発見例も少なく、なおかつ軌道が分かっているものが少ないため、これらの発見は長周期惑星の形成を理解するために重要な情報となると期待されます。
 岡山観測所では赤色巨星周りの系外惑星探索が大規模に行われていますが、本プロジェクトでは主に赤色巨星へと進化する前の主系列星周りで系外惑星探索を行っています。本結果は、岡山観測所188cm望遠鏡を用いた最初の主系列星周りの惑星発見となります。

2つの惑星を持つ太陽系外惑星系の想像図

図1. 2つの惑星を持つ太陽系外惑星系の想像図。(クレジット:国立天文台)

高金属量星周りの惑星探索

 本研究グループは、2009年から岡山観測所188cm望遠鏡、すばる望遠鏡を主に用いて、高金属量星周りの系外惑星探索を進めています。「金属量」とは、恒星大気中に含まれる重元素の量で、本プロジェクトでは、太陽に近い温度の主系列星[1]の中でも、特に鉄の含有量が高い星を中心に惑星探索を進めています。高金属量の星は惑星が存在する確率がより高く、さらに最近の研究では惑星形成の現場である原始惑星系円盤も金属量によって特徴に違いがあるという指摘もあり、惑星形成を理解する上で高金属の星は興味深い対象です。
 このプロジェクトの前身となったのは、2004年にスタートした「N2Kコンソーシアム」という国際プロジェクトで、すばる望遠鏡・ケック望遠鏡・マジェラン望遠鏡という大型望遠鏡を用いて、高金属量星周りにホット・ジュピター[2] を探す、というものでした。ここで集まったデータは、ホットジュピターを見つけるのみならず、地球や火星に近い軌道に存在する惑星候補の検出も可能になるほどに蓄積されていました。
 すばる望遠鏡は、短期間に多数の恒星について効率的にデータを集めることが得意なので、ホット・ジュピターの検出や、それよりも長い周期の惑星候補を絞り込むために有効です。これに対して、岡山観測所188cm望遠鏡では長期間じっくりと安定した観測を行うことが得意なので、周期が長い惑星の軌道を正確に決めるために有効です。
 そこで両望遠鏡の利点を生かし、すばる望遠鏡が過去に撮りためたデータから惑星の存在が示唆されるような恒星をターゲットに設定し、より高頻度な観測を目的として2009年から、岡山観測所188cm望遠鏡と高分散分光器”HIDES”を用いて、視線速度法を用いた惑星探索を行っています。2011年からは、HIDESに新たに搭載されたファイバーフィード系によって、観測効率が大きく向上し、それに応じて探索規模を拡大しています[3]。

HD 1605 と HD 1666 の位置

HD 67087 の位置

図2. 今回発見された太陽系外惑星系の位置。

HD 1605 : 二つの惑星 + さらに遠方にもう一つ?

 このHD 1605という星は、アンドロメダ座に属する明るさ7.5等級の恒星です。年齢は約46億歳、質量は太陽の1.3倍、直径は太陽の3.8倍と見積もられました。実はこの星は主系列星ではなく、やや年老いて進化した「準巨星」という星で、この星の周りに、以下の二つの惑星が検出されました。

HD 1605 b
質量[4] 0.96 木星質量
周期 578 日(1.05 AU[5])
HD 1605 c
質量 3.5 木星質量
周期 2111 日(3.5 AU)

 さらに、視線速度の変動を見てみると、惑星による周期的な変動に加えて全体的に変化していることがわかります。これは、より外側に惑星や伴星などの天体が回っていることを示唆しています(図3)。

HD 1605で観測された視線速度変化

図3. HD 1605で観測された視線速度変化。赤線は観測された視線速度を最もよく再現する理論曲線。点線は全体的な視線速度の変動を表しており、これに沿って二つの惑星による周期的な変動をしていることがわかった。(クレジット:国立天文台)

 見つかった二つの惑星はいずれも軌道がほぼ円形(軌道離心率がほぼ0)でした(図4)。 これは、この惑星たちが形成後にお互いの重力や、周りの星々から重力の影響を長い間受けていないと考えられます。しかし面白いことに、この系の外側には、伴天体[6]が存在していることが同時にわかりました。こうした遠くの伴天体の存在は、内側に形成された惑星の軌道を乱してしまう可能性があります(古在機構)。 しかし、これらの惑星は軌道を乱された形跡はありません。そのため、この惑星系は外側に存在する伴天体が、どのように惑星軌道に影響するのかを知るための重要な手掛かりとなります。後述するHD 67087 の特徴と比較すると、互いに興味深い特徴を持つことがわかります。

HD 1605 b,c の軌道平面図

図4. 惑星 HD 1605 b,c の軌道を平面に投影したもの。点線、破線、一点鎖線の円は、外側から順に木星、火星、地球の軌道の大きさを示している。(クレジット:国立天文台)

HD 1666 : 大きく歪んだ軌道の巨大惑星

 HD 1666はF型星という太陽よりもやや熱い主系列星で、くじら座に属する8.2等級の星です。年齢はおよそ18億歳、質量は太陽の1.5倍、直径は太陽の約2倍であると推定されました。この星では惑星が一つ検出されました(図5)。

HD 1666 b
質量[4] 6.4 木星質量
周期 270 日(0.94 AU)
軌道離心率 0.63

HD 1666で観測された視線速度変化

図5. HD 1666で観測された視線速度変化。各点の色や線の意味は図3と同じ。視線速度の変動が急激な時期があり、軌道離心率が大きいことを表している。(クレジット:国立天文台)

 この惑星は非常に質量が大きく、大きく歪んだ軌道が特徴です(図6)。こうした惑星は、形成直後に同時に存在した惑星同士の重力でお互いを弾き飛ばし、系外に放り出されたり、中心星に落ちてしまったりして、歪んだ軌道の惑星が一つだけ残った、という形成シナリオ(惑星散乱)が考えられます。この星は金属量が非常に高いので、惑星の材料となる固体物質が多いと考えられます。したがって、惑星がいくつも同時に形成できる余地があるため、惑星散乱シナリオと整合的だと考えられます。
 中心星 HD 1666 の質量は太陽のおよそ1.5倍です。質量が太陽の1.5倍以上の主系列星は典型的には自転速度が非常に速く、視線速度法による惑星探索が困難になります。この惑星系は、アプローチが困難な、重い主系列星周りでの惑星の姿を垣間見ることができる貴重なサンプルです。

HD 1666 b の軌道平面図

図6. 惑星 HD 1666 b の軌道を平面に投影したもの。破線、一点鎖線はそれぞれ火星、地球軌道を示す。(クレジット:国立天文台)

HD 67087 : 2つの巨大惑星 外側だけが楕円軌道?

 HD 67087は8.2等級の明るさで、ふたご座に属するF型の主系列星です。年齢はおよそ15億歳で、質量は太陽のおよそ1.4倍、直径は太陽の1.6倍です。この恒星周りに二つの巨大惑星が検出されました(図7)。

HD 67087 b
質量[4] 3.1 木星質量
周期 352.2 日(1.1 AU)
軌道離心率 0.17
HD 67087 c
質量 4.9 木星質量
(参考値)
周期 2374 日(3.9 AU)
軌道離心率 0.76 (参考値)

HD 67087で観測された視線速度変化

図7.HD 67087で観測された視線速度変化。軸や各点の色、線の意味は図3と同じ。二つの周期変動が検出された。(クレジット:国立天文台)

 この惑星系で着目したい点は、外側の惑星HD 67087c(以下、惑星c と表記)だけが高い離心率を示していることです(図8)。 これらの惑星がどのような過程で形成されたかを考えてみると、謎がいくつか浮かび上がってきます。
 まず、惑星散乱シナリオは惑星同士の重力によって離心率を大きく上昇させることができます。しかし、惑星cだけが大きく歪んだ軌道を持つことについては説明が困難です。次に、古在機構による軌道進化を考えると、惑星cのほうが、さらに外側の伴天体からの重力を強く受けるので、もしそのような伴天体が存在すれば、惑星c の軌道だけが歪んでいることを説明できる可能性があります。しかし、現在のところ、さらに外側に伴天体が存在することを示す視線速度変動は見られませんでした。
 ところで、HD 1605も同程度の質量・周期の惑星が存在していましたが、こちらは伴天体の存在が示唆されるにもかかわらず円軌道でした。つまり、面白いことにHD 1605, HD 67087の二つの系は、それぞれ理論的に予想される進化とは対照的な特徴を持っていることになります。これらの発見は伴星の有無(あるいは質量)と、惑星の軌道進化への影響を調べる上で極めて重要な手掛かりになると期待されます。
 ただし、外側惑星(HD 67087 c)の、特に離心率の精密な軌道決定にはまだ観測が必要であることに注意が必要です。図8を見ると、現時点で推定される二つの惑星の軌道は、互いに重なってしまっています。こうした状態はほとんどの場合で安定しないため、実際の軌道は現時点の推定から変わる可能性があります。今後の追観測によって軌道をより精密に決定し、惑星形成シナリオを考えてゆくことが重要となります。

HD 67087 b,c の軌道平面図

図8. HD 67087 b,c の軌道を平面に投影したもの。点線、破線、一点鎖線の円は、図4と同様に外側から順に木星、火星、地球の軌道の大きさを示している。(クレジット:国立天文台)

今後の展望

 中心星から遠く離れた惑星については周期が非常に長いために観測が進まず、まだ分からないことが多くあるため、今後も継続的な観測を進めてゆく予定です。岡山観測所188cm望遠鏡による継続的な観測と、N2Kコンソーシアムから10年以上にわたり蓄積されたデータは、長周期の惑星探索において世界的にも非常に大きなアドバンテージとなっています。
 また、我々のターゲットは金属量が高い恒星を抽出しているので、これを生かして中心星の金属量の違いが惑星形成に与える影響を統計的な手法で明らかにすることも計画中で、これによって様々な環境下での惑星形成に対する理解が一層深まることが期待されます。

脚注
[1] 安定して熱核融合反応を行う恒星のこと. 恒星は一生のうち、ほとんどが主系列段階の状態なので、宇宙の恒星の大半は主系列星です。
[2] 中心星のごく近傍を回る木星型惑星. 中心星に熱せられて非常に熱いと考えられるため、ホット・ジュピターと呼びます。
[3] 元々、N2Kのターゲットは10mクラスの大型望遠鏡で観測するような暗い星ばかりを集めていたので、観測開始当初は望遠鏡口径188cmと集光力で不利である岡山観測所での観測は限定的でした。
[4] 視線速度法のみで推定できる惑星の質量は最小値であり、実際の軌道によっては、もっと重くなる場合があることに注意が必要です。
[5] Astronomical Unit の略で、日本語では「天文単位」といいます。1天文単位は、太陽から地球までの平均距離(およそ1億5千万km)を表します。
[6] ここで「伴天体」と呼んでいるのは、まだ質量がわからないので、惑星か恒星かの区別がつけられないためです。

論文掲載誌

 この研究は米国天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」オンライン版2015年6月3日号に掲載されました。
FIVE NEW EXOPLANETS ORBITING THREE METAL-RICH, MASSIVE STARS: TWO-PLANET SYSTEMS INCLUDING LONG-PERIOD PLANETS AND AN ECCENTRIC PLANET
著者:原川紘季、佐藤文衛、大宮正士、デブラ・フィッシャー、他12名

(2015年10月公開)

このページの先頭へ戻る