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巨星に2個の巨大惑星を発見

-日豪協力による初成果-

 東京工業大、ニューサウスウェールズ大、国立天文台、広島大、兵庫県立大からなる研究グループは、岡山天体物理観測所188cm望遠鏡とアングロオーストラリアン望遠鏡を用いた観測により、HD4732と呼ばれる巨星を周回する二つの巨大惑星を発見しました。

巨星を周回する2個の巨大惑星の想像図

日豪協力で惑星発見

 研究グループは、2001年から岡山観測所で約300個の巨星を対象に視線速度法(注1)による系外惑星探索プロジェクトを進めています。今回惑星が見つかった巨星HD4732(図1)もその中の一つで、岡山観測所では2004年8月にこの天体の観測を始めました。その後1~2年ほどが経過すると、この天体は公転周期約1年の惑星をもつことが判明し、さらに観測を継続すると、より長周期の二つ目の惑星が存在する可能性も見えてきました。しかし運の悪いことに、この天体は南天の星で高度が低く、岡山観測所からは約半年間しか観測できません。つまり、公転周期約1年の惑星の場合は常に軌道の半分しか観測できないことになり、軌道をきちんと決められませんでした。一つ目の惑星の軌道が決まらないので、二つ目の惑星が本当にあるのかどうかも長い間疑わしいままでした。

HD4732の位置

図1.HD4732の位置。HD4732はくじら座にある5.9等星で、太陽の約1.7倍の質量と約5倍の半径をもつ。地球からの距離は約180光年。赤緯マイナス24°のため、岡山からは約半年間しか観測できない。

 そこで、2010年9月からオーストラリア・ニューサウスウェールズ大の研究者と協力し、アングロオーストラリアン望遠鏡(注2)での観測を始めました。南半球にあるオーストラリアからは岡山よりも長い期間この天体が観測できるため、公転周期約1年の惑星の軌道をきちんと決めることができました。その結果、二つ目の惑星の存在も確定的となり、その公転周期は約2700日であることが分かりました(図2、3)。

図2.HD4732で観測された視線速度変化

図2.HD4732で観測された視線速度変化。横軸はユリウス日、縦軸は視線速度変化(メートル毎秒単位)。黒丸が岡山観測所188cm望遠鏡、青丸がアングロオーストラリアン望遠鏡での観測点を表す。赤線は観測された視線速度変化を最もよく再現する理論曲線。周期約360日と約2700日という二つの周期的変化を示しており、この恒星の周りを二つの惑星が公転していることを意味している。

図3.HD4732を周回する二つの惑星の軌道の形

図3.HD4732を周回する二つの惑星の軌道の形(赤い実線)。真ん中の+印が恒星の位置。破線は比較のため示した太陽系の地球、火星、木星(内側から)の軌道の形。数字は天文単位(AU)。

惑星系の軌道安定性

 今回見つかった二つの惑星の質量はどちらも木星の約2.4倍と推定されています。しかし、実はこの質量は下限値です。今回の観測に用いられた手法である視線速度法では、通常惑星の軌道の傾きが分からないため惑星の真の質量を知ることができず、あくまで下限値しか求められません。つまり、惑星を発見したとは言いながら、実は軌道の傾き次第ではそれはもっと重い恒星のような天体かもしれないのです。
 今回のような複数惑星系の場合には、惑星軌道の安定性を調べることによって惑星質量に制限をつけることができます。惑星が重ければ重いほど惑星同士の重力相互作用が強くなり、ある質量以上では短い時間で軌道が不安定になるため、そのような惑星系を我々は観測することができません。我々が今発見できるためには、その惑星系が少なくとも親星の年齢くらいの期間は存在し続けなければならないのです。理論計算の結果、今回の惑星系の場合は、軌道が安定であるためには惑星の質量は木星の約28倍より小さくなければならないことが分かりました(注3)。つまり、HD4732を周回する二つの天体は重くてもせいぜい褐色矮星程度であって恒星ではないことが示されたのです。

今後の展望

 複数惑星系には、上記のような利点の他にも惑星系の形成や進化の研究にとって重要な情報が含まれています。特に巨星で複数惑星系が見つかった例は未だ少なく、今後の観測の進展が期待されます。研究グループは今回成功した日豪協力を引き続き推進し、複数惑星系を含むより多くの惑星系を発見していきたいと考えています。

この研究論文は、米国アストロフィジカル・ジャーナル誌 2013年1月1日号に掲載される予定です。

注1
天体の視線方向の速度を視線速度という。惑星が恒星に及ぼす引力によって恒星の視線速度が変化する様子をとらえるのが視線速度法。惑星の質量が大きいほど恒星の視線速度変化は大きくなる。一般に惑星の軌道は視線方向に対して傾いており、我々は恒星の運動速度が視線方向に射影された成分しか観測することができない。そのため、恒星の視線速度変化から推定される惑星質量は下限値となる。
注2
Australian Astronomical Observatory(AAO; http://www.aao.gov.au/)にある口径3.9mの反射望遠鏡(Anglo-Australian Telescope; AAT)。系外惑星探索に必要な高精度の高分散分光器を備え、1990年代後半から系外惑星探索を続ける有名な望遠鏡。
注3
ここでは、二つの惑星は同一平面上にあり、同じ方向に公転していると仮定している。

2012年12月

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