コンテンツのイメージ

巨星を巡る新たな複数巨大惑星系の発見

〜相互逆行惑星系か?〜  —日中豪協力による系外惑星探索の最新成果—

 東京工業大、中国科学院国家天文台、国立天文台、久留米大、ニューサウスウェールズ大などからなる研究グループは、岡山天体物理観測所188cm望遠鏡、中国興隆観測所2.16m望遠鏡アングロオーストラリアン望遠鏡を用いた足掛け7年半に及ぶ観測によって、HD47366 と呼ばれる巨星を周回する二つの巨大惑星を発見しました。この惑星系は、二つの巨大惑星がお互いに逆向きに公転しているかもしれない、大変興味深い惑星系です。

HD47366の位置

図1. HD47366の位置。 HD47366はおおいぬ座にある実視等級6.1等のK1型巨星で、太陽の約1.8倍の質量と約7倍の半径をもつ。地球からの距離は約260光年。 HD47366探し方星図

日中豪協力で惑星発見

 研究グループは、2001年から岡山観測所で約300個の巨星を対象に視線速度法(注1)による系外惑星探索プロジェクトを進めています。また、2005年からは中国科学院国家天文台の研究者と協力して、中国興隆観測所で約100個の巨星を対象とした共同惑星探索を進めてきました(注2)。今回惑星が発見された HD47366(図1)はこの日中共同惑星探索の天体の一つで、興隆では2006年11月、岡山では2006年12月に観測を始めました。その後、この天体が南天の星で高度が低かったことから、2013年から2014年にかけてオーストラリアのアングロオーストラリアン望遠鏡での観測も行いました(注3)。三つの望遠鏡を使って約7年半に渡り合計161点の視線速度データを集めて、ついに二つの惑星の発見に至りました。

相互逆行惑星系か?

 今回見つかった二つの巨大惑星は、それぞれ公転周期約363日と約685日で中心星(HD47366)の周りを回っています(図2、3)。公転周期の比は1.88で、一般的な複数巨大惑星系に比べて惑星間の間隔が狭いのが特徴です。このように惑星間の間隔が狭いと、お互いの重力によって軌道が短期間で乱され、安定した軌道を保ちにくくなります。HD47366系の場合も、惑星間の相互重力を考慮して軌道進化を計算したところ、観測された中心星の視線速度変化を最もよく再現する軌道は不安定であることが分かりました。

HD47366で観測された視線速度変化

図2. HD47366で観測された視線速度変化。横軸はユリウス日、縦軸は視線速度変化(メートル毎秒単位)。赤と青が岡山観測所188cm望遠鏡、茶、マゼンタ、シアンが興隆観測所、緑がアングロオーストラリアン望遠鏡での観測点を表す。黒線は観測された視線速度変化を最もよく再現する理論曲線(下のパネルはこの曲線と観測点の差)。周期約363日と約685日という二つの周期的変化を示しており、この恒星の周りを二つの惑星が公転していることを意味している。また、視線速度変化の振幅から内側の惑星の質量は約1.8木星質量、外側の惑星の質量は約1.9木星質量と推定される。

理論曲線に相当する二つの惑星の軌道の形

図3. 図2の理論曲線に相当する二つの惑星の軌道の形(赤い実線)。左が順行(不安定)、右が相互逆行(安定)の場合(外側の惑星の軌道が裏返った形になっている)。真ん中の+印が中心星の位置。中心星の視線速度変化からは両者の区別はほとんどつかない。破線は比較のため示した太陽系の地球、火星(内側から)の軌道の形。数字は天文単位(AU)。

 しかし、現に惑星系が発見されたということは、安定な軌道が何らかの方法で実現していることになります。このような場合に通常考えられるのは、二つの惑星が平均運動共鳴(注4)の関係にある可能性です。今回の場合、二つの惑星の公転周期の比が2対1になっていれば安定な軌道配置が存在しますが、このとき予想される中心星の視線速度変化は観測結果とは大きく異なります。また、これも観測結果からはやや外れますが、両惑星がほぼ円軌道で周回しているとすれば安定な軌道配置が存在します。
 上記以外に考えられる可能性は、二つの惑星がお互いに逆向きに公転している というものです。視線速度法では中心星の視線方向の動きしか分からないので、惑星がどちらの向きに公転しているかは10年足らずの観測ではほとんど区別できません。そこで、相互逆行を仮定して軌道進化を計算すると、図3右に示す軌道は100万年以上安定であることが分かりました。惑星が相互に逆行して公転していると、軌道が接近していても短時間ですれ違うため、順行に比べて軌道が安定になりやすいのです。

今後の展望

 これまでに、相互逆行が確認された惑星系は存在しません。しかし、今回同様、軌道の安定性から相互逆行が示唆される系は他に一例報告されています(注5)。HD47366系が本当に相互逆行惑星系かどうか、研究グループはさらに長期間の観測を続けることによって明らかにしたいと考えています。

この研究論文は、米国アストロフィジカル・ジャーナル誌 2016年3月1日号に掲載されました。
http://iopscience.iop.org/article/10.3847/0004-637X/819/1/59/pdf
A PAIR OF GIANT PLANETS AROUND THE EVOLVED INTERMEDIATE-MASS STAR HD 47366: MULTIPLE CIRCULAR ORBITS OR A MUTUALLY RETROGRADE CONFIGURATION
著者:佐藤文衛他21名

注1
天体の視線方向の速度を視線速度という。惑星が恒星に及ぼす引力によって恒星の視線速度が変化する様子をとらえるのが視線速度法。惑星の質量が大きいほど恒星の視線速度変化は大きくなる。また、複数の惑星が存在する場合は、それぞれの惑星の公転周期に相当する複数の周期が重なり合った視線速度変化が観測される。
注2
巨星のまわりに褐色矮星を発見(2008年1月発表) も参照
注3
巨星に2個の巨大惑星を発見 -日豪協力による初成果-(2012年12月公開) も参照
注4
公転する2つの天体が互いに規則的・周期的に重力を及ぼし合う結果、2天体の公転周期が簡単な整数比になる現象。共鳴によって軌道が安定化する場合も不安定化する場合もある。
注5
BD+20 2457と呼ばれるK2型巨星を周回する二つの褐色矮星も、軌道の安定性の観点から相互逆行が示唆される(Horner他、http://mnras.oxfordjournals.org/content/439/1/1176.full.pdf

このページの先頭へ戻る