0. 観測の際の注意


 解析ソフトの解説でいきなり観測の注意が出ると面食らう方がおられるかも知れないが、観測と解析は表裏一体のものであり、効率よく精度のよい解析をするためには観測の際にも十分な注意が必要なのである。 特に本ソフトで気持ちよく解析を進めたければ観測の際に次の点に注意されたい。

  1. 観測の最初と最後に必ずバイアスを取得し、セーブすること。
  2. 天体露出の前後にできるだけコンパリソンフレームを取得し、セーブすること。 特に望遠鏡を振ったときは必ず新しい望遠鏡位置でコンパリソンを取得する。 ただし、望遠鏡位置があまり動かないSNG観測では天体3フレームに1フレームの割合くらいでコンパリソンを取得すれば十分である。
  3. こまめにハルトマンテストを行い分光器焦点を合わせること。 特に望遠鏡を大きく振ったときは必ずハルトマンテストにより焦点調節をする。
  4. バイアスも頻繁に取る。
  5. フラットフィールド(ドームフラット)は観測の最初か最後に撮る。 このとき5000〜10000カウントのフレームを5枚程度撮って十分なS/Nを稼ぐこと。
  6. フラットフィールドを撮る前に必ずハルトマンテストを行い分光器焦点を合わせておくこと。 フラットフレームの焦点がずれているとスリット開口の非一様性がフラットフィールディングで十分に補正されないから。
  7. 標準星データも取得しておく。 標準星としてはできれば「KPNO IRS」或いは「KPNO IIDS」の中から目的天体に近いもの選んでおく。 適当な星がなければ上記以外のカタログから星を選んでもよいが、その場合IRAFにエネルギー分布のテーブルがないことがあり、自分でエネルギー分布テーブルを作らなければならないこともありうるので注意されたい。
  8. 暇なとき(悪天候、観測終了後など)にできるだけたくさんのダークフレームを取得しておくこと。 ダークとダークの間は必ずバイアスをはさむ。 ダークをとるためのSNGファイルを用意し、SNGを起動すれば楽である。

 以上だが、見たところ非常に面倒なように思われるであろう。 そして、もしこれをまじめに行ったら一日の取得フレームのほとんどがcalibration用データとなるであろう。 しかし、精度良い観測にはそれが絶対的に必要なのである。 慣れればそれほど時間は取られない。 我々の推奨する観測手順は、時間の順に書けば例えば次のようになる。

  1. ドームを開ける。
  2. 明るい星をいれ、望遠鏡の焦点を合わせる。
  3. バイアスを取得し、セーブする。
  4. 望遠鏡を目標天体に向ける。
  5. ハルトマンテストを行い、分光器焦点を合わせる。
  6. バイアスを取得する。
  7. コンパリソンラインを撮る。
  8. 天体を撮る。
  9. バイアスを取得する。
  10. コンパリソンラインを撮る。
  11. SNGをするなら、3露出に1回程度コンパリソンラインを撮るようにする。
  12. 天体を変えたり、グレーティングを変えたりしたときは5)--10)を繰り返す。 ときどき明るい星をいれ、望遠鏡焦点を調節する。ここで注意すべきは望遠鏡を振った後、振る前に必ずコンパリソンラインを撮っておくことである。 新カセ分光器はたわみが大きく、向きが変わると像移動・波長移動が起こってしまうためである。
  13. 標準星データを必要に応じて撮る。 もちろん、標準星を撮るときもまじめに5)--10)の手続きを踏む。 標準星データをセーブするときは、オブジェクト名としてできるだけ正確な名前(複数名あるときはカタログの先頭に載っている名前)を入力する。 決して「HD199964」を「HD」などと省略してはならない。 後の解析で困る事になる。
  14. 未明にドームを閉めドームフラットを撮る。 ドームフラット位置に望遠鏡を向けたら忘れずにハルトマンテストをして分光器焦点を合わせる。 ドームフラットは分光器の1 configuration当り5枚程度ずつ撮る。
  15. バイアスを取得する。
  16. 観測が終了し液体窒素を補充した後、引き上げて寝る前に20分程度のダークを複数枚取得するSNGを実行しておく。 SNGパソコンのA:SNGFILEというディレクトリに「DARKS.SNG」というSNG手順ファイルの雛形が入っているので、こいつを直接使うか適当に編集して使うとよい。 ドーム内は消灯し、観測待機室の黒板にダーク取得終了予定時刻を書き、それまでドーム内の点灯をしないようにお願いしておく。

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