本稿では岡山天体物理観測所の共同利用観測装置であるOASISの観測手順を概説する。
撮像観測の場合 1、2 (必要に応じて4のミラー角度調整も)
分光観測の場合 1〜5
である。
これらの部分のうち、1〜5の操作はワークステーションから行う。操作の方法は1については2.1、2〜5については2.2章を参照のこと。
検出器の位置調整(6)は何らかの理由でOASISの分解を行った場合に一度だけ行なう必要がある。この調整は通常観測所員があらかじめ行なっている場合が多い。(6)の作業についてはこちらを参照してください。
また、光軸の調整(7)はOASISを望遠鏡に取り付けた後、最初に一度だけ行えばよい。装置交換後の最初の観測者に限り、最初の晩に(最初に晴れた晩、多少雲があっても可能)オペレーターと協力して行なって下さい。(7)の作業についてはこちらを参照してください。
赤外線検出器はまだbad pixelが多いため、1フレームでは取得できない情報が多くなる。そこで、1種類の画像データ (撮像観測でも分光観測でも) に対して位置をずらせた複数のフレームを取得して補完し合い、情報を失わないようにする。通常OASISでは、撮像観測のときにはこの例のように2次元的に望遠鏡を移動させ、また分光観測のときにはスリットに沿って移動させて5〜10枚程度のフレームを取得する。
また、赤外線ではOH夜光や望遠鏡からの熱放射によりバックグラウンドが多いため、短い積分時間でバックグラウンドリミティッドになりかつ検出器が飽和
OASISの赤外線アレイ検出器を読み出すには制御室のワークステーション "sisko" (右の写真)を用いる。1フレームのデータを取得してハードディスクに記録するタスクを "Object" と呼び、データは記録せずに画面に表示させるだけのタスクを "Movie" と呼ぶ。また、同じ露出時間のフレームを複数枚連続で取得する(主にダーク画像取得のための)タスクを "Dark" と呼ぶ。
(注)xoasis が走っている間、下に示す Movie、あるいは Exposure のどちらも動かしていないときは "xoasis_status"のターミナルに"reset NICMOS"の表示が連続的に出る。これは、常にから読みだしを行なっていることを示している。実際にデータを取る時は、残像の影響を減らすために露出と露出の間に"reset NICMOS"が2〜3回以上表示される程度の時間の間隔を開けた方がよい。
Movie を動かしながら Display の表示のレベルや積分時間を変更することも可能である。ただし、変更(入力)した後はCRをしないと有効にならないので注意が必要。
観測の最後にダークを取得する場合は Exposure の Dark を使うと便利である。異なる露出時間のダークを一度に取得することができ、また自動的にヘッダーに"dark"と記述される。
(注)Dark のタスクを走らせると、"Exposure" windowの"file name"の所の表示が「Dark のタスクで撮った2枚目のファイルの番号」になってしまう(つまりoas111000からダークを取り始めた場合、表示がoas111001になる)が、気にしないこと。
フィルター、スリット、ミラー等、観測時に操作を行なう部分はすべてワークステーションから遠隔操作できるようになっている。これら可動部分の現在のステータスは xoasis の window 上に常に表示される。なお、これらの操作をするときには Movie などの読みだしの操作を一旦止めてから行なうこと。
フィルターを変更する時にはフィルターホイール(3枚ある)を回転させる。使用するフィルターがどこに install されているかを別紙から(または Setup のプルダウンメニューから Filter1〜Filter3 を選択、window を開いてリストアップされているフィルターを見て)確認し、変更したいフィルターの入っているホイールを Setup のプルダウンメニューから選択し、新たに開かれた window の中から使用するフィルターのところをクリックしたのち、OKをクリックすれば良い。現在選択されているフィルターのところは薄字になっており、選択できないようになっている。この window はホイールの回転が終了すると自動的に消える。
通常はこの操作の繰り返しで良いが、フィルターの中心が光軸中心に合っておらず、ビームがけられているような場合には細かい単位で回転させて調整する必要がある。Filter1、Filter2 についてはそれぞれの window から reset、OKをクリックすれば自動的に調整を行ない、その後 Filter1 の場合 Cold Shutter、Filter2 の場合 none(素通し)に自動的に設定される。Filter3については自動調整機構がないので、adjust の入力欄に適当な数字を入力し(±500でフィルター1個分回転)adjust をクリック(←忘れずに必ず!)、OKをクリックすることにより調節する。(OASIS立ち上げマニュアル参照)
スリットを出し入れする時、あるいは別のスリットに変更する時は Setup から Slit のメニューを選択して操作する。操作方法はフィルターとほとんど同じである。ただしスリットホイールの駆動はウォームギアを用いていることから、スリット1つ分移動させるのに±20000(訂正:Jan25,2000:旧エントリは±30000)の値を入力する必要があるので微調整の時にはフィルターの場合よりも大きい数値を入力する必要がある。正の値を入力するとスリットの左側を下げて右側を上げる方向に、負の値は逆方向に移動する。なお、現在 install されているスリットは別紙の通りである。
撮像モードと分光モードの切替えは最終ミラーの角度を変えることにより切替える。Setup から Mode を選択すると、現在の状態(Imaging or Spectroscopy)が薄字になっているので、切替えたいモード(つまり現在のモードではない方、選択肢は一つ)をクリックして選択し、OKをクリックする。
最終ミラーの角度がずれると、撮像の場合には画面にケラレが生じる(大抵の場合下方両端(片側だけの場合もある))。また、分光の場合には波長方向のずれとなって現れる。
グレーティングの角度調節は Setup から Grating を選択して行なう。各観測波長の場合のおおまかなグレーティングポジションは次のようになっている。->不明な場合は奥村まで相談のこと。
Grating の window で adjust に適当な値を入力し、最終的に上記の値になるように調節する(将来的にはマウスのクリックで所定の位置に調節できるようにする予定である)。細かい調節はOH夜光などを参照しながら手作業で数値を入力しながら行なう(4.1参照)。
望遠鏡のポインティングは OASIS の4分角の写野に比べると十分に良いので、望遠鏡制御系にインプットした天体はほとんどの場合写野に入っている。ただし、いつも写野の中心に天体が来るとは限らないので、天体の同定は OASIS の画面に表示される生データで行う必要がある。等級で比較すると、波長が短い方が高感度なので、特に赤い天体を除くと Jバンドで同定を行うのがよい。Jバンドでの movie でも(フラットで補正をしなくても)、通常のファインディングチャートの写っている天体は認識できるので、天体の同定はそれほど困難ではない。ただし、天体のカラーによって(通常可視光である)ファインディングチャートと Jバンドのイメージでは明るさの比が大きく異なる場合があるので、同定作業中にこの点には気をつけなければならない。
(注意)日本真空光学のフィルターを使用する場合、同じ波長の広帯域フィルターを重ねて使う必要がある。
ここでは、撮像観測が行える状態から出発して分光観測を行う手順を説明する。撮像観測を行なわない場合でも3章は一読すること。特に分光観測時にはスリット方向に天体を移動させることがしばしばあるので、3.1に記述したように写野のP.A.を正しく東西南北に合わせておくことは重要である。(ただし、広がった天体などでP.A.を自分で設定している場合はこの限りではない)
スリットビュワーで見える天体の場合は、天体のスリットへの導入がスリットビュワー上で容易に行えるので、分光モードのままで観測天体の変更が可能である。また、同じ設定(波長範囲など)で分光観測を異なる複数の天体に行う場合には、一連の観測開始時に必要な分光モードの設定を行えば良い。撮像モードから分光モードに変更するには以下の手順で行う。
OH夜光を用いるのが最も手軽、かつ正確である。取得したイメージのパターンに対しての波長同定に自信があればOH夜光を波長の最終確認や取得波長範囲の微調整に用いるのが良い(KバンドのOH夜光ファインディングチャートはこちら)。もし、波長同定に不安がある場合には、明るい天体を導入してフィルターの特性(狭帯域フィルターの透過範囲や広帯域フィルターの波長端)を用いて大まかに波長を決めた後にOH夜光を使うのが確実である。
スリットビュワーで見えない天体は、天体の導入にOASISのイメージングモードを用いる必要がある。従って、天体を変える度に手間が増えることになる。手順は以下の通りである。
ドームフラットを撮る時の望遠鏡の向きは観測時と大きく異なっている場合が多く、たわみのために同じセッティングでも見ている波長がずれる(たいていは長い方に)ことがある。このずれを気にする向きは撮像のドームフラット画像を変わりに使う手もある。撮像のフラット取得の方法は3.4参照。
2.1 データ読み出しの操作
(注)プルダウンメニューで Dark を選択しても、フィルターは自動的にはCold Shutterにはなりません。フィルターの切り替えは別個に行ってください。
2.2 フィルター等可動部分の操作
現在、望遠鏡の向き、モーター間のクロストーク、その他の原因でこの最終ミラーの角度がずれてしまうことがしばしばあり、調整を要する。調整の方法は、
Setup - Grating windowのadjustに正の数を入力すると、現在の位置よりも波長の長い方をみるようにグレーティングが回転する。負の値を入れれば逆向きに動く。
バンド
波長範囲
Grating Position
Jの短い方
μm
????
Jの長い方
μm
????
Hの短い方
1.50〜1.66μm
????
Hの長い方
1.62〜1.78μm
????
K’のほぼ全体
2.00〜2.33μm
????
J&H(低分散)
μm
????
K(低分散)
μm
????
プリズム
μm
????
3. 撮像観測
3.1 写野のP.A.の調整
OASISの写野のX-Y軸(上が北、左が東)を以下の方法でR.A. Decl. 方向に合わせる。
3.2 暗い天体の同定方法
将来的には flat を登録しておいて生データだけではなく flat で割り算した画像を表示するオプションを選択可能にする予定であるが、現状ではその機能はない。従って、次善の策として暗い天体や銀河のように広がった天体を同定するには以下の方法を用いる。
もしくは、
3.3 標準星
標準星は Elias 1982 (AJ, 87, 1029) のリストや UKIRT 等海外の望遠鏡で作成されたリストにあるものを用いる。これら以外に、柳沢氏作成による標準星リスト(元はAJ 115,2594から抜粋、ファインディングチャート付きで非常に便利)が制御室に置いてあるので、これを用いても良い。標準星は十分に明るいので測定の精度を左右するのは nominal な S/N 比ではない。近赤外線では可視光よりに比べてエアマス依存性が少し小さいが、測光の場合には頻繁に標準星を観測する必要がある。また、1回の標準星の観測では、測定のばらつきを見るためやフラットエラーをキャンセルするためにも、各バンドにつき画面上の位置を変えて最低5枚のイメージ(dead pixelにかからないもの)を取得するべきである。
現在のところの最短の積分時間である1.4秒では、7等級ぐらいの標準星は saturate してしまう。そこで、フォーカスをはずして、もっとも高い ADU カウントが4000以下になるようにする必要がある。ただし、フォーカスを外すと面積が大きくなるので、標準星が dead pixel にかかる可能性が高くなるので注意が必要である。3.4 ドームフラットの取得
H、Kバンドでの観測ではドームフラットのデータが解析の際に必要となる。(OASIS撮像マニュアル参照)。Jバンドではスカイフラットを用いてもほとんど問題はないが、カウント数が少なく、やはりドームフラットを取得した方が良い。ドームフラットフレーム作成の手順は次の通りである。
3.5 参考データ
フィルター
メーカー
中心波長
半値幅
比帯域
[FeII](J)
Barr
1.257μm
0.012μm
1.0%
continuum(1.605)
日本真空
1.605μm
0.026μm
1.6%
[FeII](H)
Barr
1.639μm
0.021μm
1.3%
continuum(1.703)
日本真空
1.703μm
0.034μm
2.0%
continuum(2.069)
日本真空
2.069μm
0.043μm
2.1%
水素分子1-0S(1)
Barr
2.127μm
0.021μm
1.0%
continuum(2.14)
Barr
2.145μm
0.024μm
1.1%
Br γ
Barr
2.164μm
0.021μm
1.0%
continuum(2.24)
日本真空
2.243μm
0.047μm
2.1%
フィルター
中心波長
半値幅
background の典型的なカウント値
(2秒露出)J
1.25μm
0.30μm
50〜100 (時間的に変動)
H
1.65μm
0.36μm
400〜800 (時間的に変動)
K'
2.16μm
0.32μm
300〜1500 (気温(季節)により変動)
K
2.20μm
0.41μm
500〜2000 (気温(季節)により変動)
4. 分光観測
分光観測を進める手順として、スリットビュワーで見える天体(可視の等級が14等以下)とスリットビュワーで見えない天体で異なるので、以下で別々に説明する。
4.1 スリットビュワーで見える天体
4.2 スリットビュワーで見えない天体
4.2.1 ガイド星がスリットビュワーで見える場合
4.2.2 スリットビュワーでガイド星も見えない場合
天体をスリット上に導く方法は 4.2.1 と同じ。露出時間を5〜10分程度と長くとりたい場合にはオフセットガイダーを用いてガイド星を探すことになる。(オフセットガイダーを用いた場合、オートガイドが可能)この場合、ガイド星のファインディングチャートがあれば良いが、そうでないとガイド星を探すのにかなりの時間を費やすことになる場合もある。従って露出時間が短い(1〜2分程度)場合にはノーガイドで数多く露出をした方が効率的だと思われる。4.3 標準星
地球大気の吸収を補正するために標準星のスペクトルをとる必要がある。水素原子のブラケットシリーズ、パッシェンシリーズ以外に目だった feature のないA0V型星が通常使われるが、見たいラインの波長や幅によっては他のスペクトル型の星を選ぶ必要がある。単に地球大気の吸収を補正するだけであれば、できるだけ近くにあるA0V型星を Bright Star catalogue などから探し、できるだけ近い時間に観測すればよい。(オブジェクトの前後で標準星のスペクトルを取っておくのが最も理想的)なお、フラックスの calibration を行なうならば、明るさのわかっている標準星のスペクトルを同時に取る必要がある。明るさのわかっている標準星については3-3を参照のこと。
4.4 ドームフラットの取得
分光観測ではドームフラットを分光モードで取得したフレームをフラットフィールディングに用いる。以下、分光モードでのドームフラットの撮り方を説明する。
5. その他注意すべき項目
5.1 検出器温度
検出器温度は制御室内の Lake shore 製の温度コントローラー(写真)によって制御されている。通常、検出器温度は 80Kに設定されている(下段の表示)。上段は現在の検出器温度で、この温度が、下段の温度と一致しているかどうかをチェックすること。この温度が目標値と一致しない場合は、真空度の悪化が、考えられる。この場合は、すみやかに観測所員に連絡して対処を依頼すること。真空引きのマニュアルはこちらにあります。
設定温度と検出器温度が一致しなくなると安定したデータが得られなくなる。こうなる前に状況が悪化していることは、温度コントローラーのヒーター目盛りの変化で知ることができる。OASISカメラ部分の温度は検出器の目標温度より低いので、温度コントローラにがヒーターを制御して温度を一定に保っている。従って、カメラ部分の温度が上昇してくるとヒーターの出力が低下してくる。ヒーター出力は温度コントローラーのバーグラフに表示されるので、正常な状態の目盛りを覚えておいて時々チェックしておくと良い。
このマニュアルは今後もよりわかりやすいように改訂を加えてゆくつもりです。わかりにくい点や説明不足の点などなどお気づきの点は、奥村真一郎までお知らせ下さい。