KOOLS CCDカメラシステムのリニアリティーに関する報告

2009/08/04 尾崎忍夫

概要

KOOLS CCDカメラシステムのリニアリティー調査と改善後の状況について結果だけ簡単に報告する。
測定手法は露出時間を変化させたときのカウント値の変化を測定する方法(手法1)と、フォトンノイズの2乗(分散)が カウント値をゲインで割った値で表せることを用いた手法(手法2)の2通りの手法を用いている。
露出時間数秒程度のデータはシャッター開閉時間の影響を受けているようである。
改善後のリニアリティーの状況は、1x1ビニングでフルウェル(27,000カウント=61,560e)まで±0.7%、 2x2ビニングでは27,000カウントまで±0.5%という結果が得られた(シャッター開閉時間の影響と思われるデータは 考慮に入れていない)。


以前の状況

KOOLSのCCDカメラシステムには以前より不具合が報告されていた (服部氏報告岩田氏報告)。

手法1


図1 KOOLSの以前のリニアリティーの状況。1x1ビニング。 LEDを用いた簡易フラット光源を露出時間を変えて複数枚のデータを取得し、フレーム内のいくつかの領域に対して、 平均カウント値と露出時間の関係をプロットした。

図2 図1を見やすくするために2000カウント付近のデータを用いて決めたリニアリティーからのずれを縦軸にした。 横軸は平均カウント値にしているのは、リニアリティーから外れるカウント値が、リニアリティーから離れるカウント値を 明らかにしたいため。 マイナス方向へのずれは、測定値がリニアリティーから予想されるよりも小さいことを意味する。

手法2


図3 2006年7月6日付けの岩田氏のレポートの図8と9。カウント値に対する分散がプロットされている。 この傾きはゲイン(e/ADU)の逆数となる。つまりデータ点が一直線上に並んでいれば、 ゲイン一定でリニアリティーが良いことを示している。この図では明らかに一直線上に並んでいないので リニアリティーが悪いことが分かる。

図2、3から以前は1x1ビニングで10,000カウント(23,000e)程度でリニアリティーが悪くなっていたことが分かる。


改善策

調査の結果、リニアリティー不具合の原因がMFront SIGADCボード上にあることが分かった。 SIGADCボード上の二つの可変抵抗の値を変えることにより、リニアリティーに改善が見られた。

改善後の状況

手法1


図4 図2と同様のプロット。改善後のカウント値に対するリニアリティーからのずれ。 フルウェルが満たされるのは27,000カウント程度。 2,000カウント以下でプラスのほうへずれるのはシャッター開閉時間の影響(次の章参照)。


図5 図4をY軸方向に拡大した図。フルウェルまでリニアリティーが±0.7%以内である。


図6 2x2ビニングにしたときの状況。30,000カウント程度でリニアリティーから外れるが、最大でも-4%程度である。


図7 図6をY軸方向に拡大した図。リニアリティーは30,000カウント程度まで±0.5%。パターンが見られる。

手法2

Normal gain x2 gain
1x1 bin
2.28 e/ADU
27,000 counts

2.23 e/ADU
15,000 counts
2x2 bin >
4.12 e/ADU
27,000 counts
>
4.06 e/ADU
15,000 counts
図8 カウント値と分散の関係。図3と同様の並びになっている。 リニアリティーがあると思われる範囲で直線フィットを行って求めたゲインと、リニアリティーがなくなるカウント値も記載している。

Nrmal gain x2 gain
1x1 bin
2x2 bin
図9 図8のデータを直線フィットして、その直線からのずれの相対値を縦軸にとった。 横軸はリニアリティーから外れるところまで表示している。 手法1に見られた、低カウントでのずれは見られない。


低カウントでのずれ


図10 1x1、2x2ビニングのデータに対して、カウント値に対するリニアリティーからのずれをプロットした。10,000カウント以下を表示している。 1x1ビニングでは2,000カウント程度からずれ始めるが、2x2ビニングでは5,000カウント程度からずれ始める。


図11 横軸を露出時間にしてプロットさせた。1x1、2x2ビニングともに25秒程度からずれ始めて、データ点が綺麗に重なることがわかる。 カウント値というよりは露出時間と関連のある現象であると考えられる。


図12 図11と同様の図。ただしリニアリティーのずれを計算する際に、露出時間が設定値よりも0.15秒長くした。 プラス方向へのずれは見られなくなった。

KOOLSで用いているシャッターのカタログには、完全に閉じた状態から完全に開くまで、あるいはその逆にかかる時間は0.1秒であると記載されている。
開くときと閉じるときを考えると最大0.2秒となり、この値は図9で露出時間に加えた値とほぼ同じである。
またカウント値と分散の関係(手法2)では低カウントでのずれが見られないことから、低カウントにおいてゲインが変化していることも考えられない。
以上のことから、低カウントでのずれはシャッター開閉時間の影響であると考えるのが妥当である。
測光精度がどの程度必要かによるが、露出時間が数秒の場合は注意しなければいけない。