188 cm 反射望遠鏡に装着された
Super OASIS クライオスタット
OASIS改修の報告
OASIS改修グループ
概要

OASISは2001年前期の共同利用を半年停止して、改修作業を行いました。ここで は改修の内容について簡単にご説明致します。



個々の改修項目の解説


● OASIS制御ソフトウエアの更新
従来のOASISソフトウエアは、Motif base の GUIを備えており、初心者でも 扱いやすいという利点がありました。GUIのメニューを見れば、ひととおりの 操作方法と機能が理解できたわけです。しかしながら、メニュー以外の操作が できないので、機能を拡張するためには開発者がコードを新に書き加える必要 がありました。残念ながら、開発者は異動しており機能拡張は大変困難な状況 にありました。

そこで、この改修においては観測装置の制御コードを新に書き直し、観測者 がカスタマイズできるできるようにしました。基本的な思想は、制御要素の動 作をコマンドで制御できるようにし、それを組み合わせたスクリプトによって 装置を制御するものです。画像を連続で数枚取得する、等の基本的な制御スク リプトは観測所側で用意致しましたが、その範囲を越えた要求については、ユー ザー自身がスクリプトを書くことで対応できるようになっています。こうする ことで、多様なユーザーの要求を満たすことの出来る仕様となっています。

さらに、ソフトウエアの更新をする過程で、次の発見と改善がありましたことを 報告します。
  • 最短露出時間を短くした。(従来:2秒 → 今回:0.3秒)
  • 露出時間はハード(CPG board)で管理することとし再現性を確保した。
  • Dome Flat の自動取得を可能とした。

UI は、GUI から CUI になりました。先祖返りしてしまいましたが、これは ソフト製作者の力量によるものです。悪しからずご了承ください。

図:Super OASIS の制御コンソール画面


図:Super OASIS のブロック図

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●光軸の姿勢変化の減少

改修前のOASISには、望遠鏡の指向方向の変化に起因した光軸のずれが認め られました。例えば、望遠鏡を天頂から南に70度程度まで倒すと、光軸は30画 素分、角度で 30 arcsec 分移動しました。これは、
  1. 撮像観測時には、指向誤差、や有効視野の減少
  2. 分光観測時には、ある波長の結像位置の移動、
  3. 背景光雑音の増加、
など、観測においても整約においても特別な注意 を必要とする厄介な要素をもたらすこととなりました。

これまでにわかった 光軸の姿勢変化の原因は、
  1. 前置光学系の光学部品支持方法、
  2. カメラ部切替えミラーの回転動力伝達部
にありました。特に、前置光 学系には、光軸調整を容易にするために、4箇所に微調整機構が採用されてい ましたが、それが却って光軸変化をもたらすことに作用していたようです。そ こで、光学素子は微調整機構をもたない固定型支持(図参照)とし、光学定盤を含めてす べて作り直しました。2)については、動力回転軸を支持する2つのベアリング 間隔を 3cm から 8 cm に拡げ、シャフトを G10 からスレンレスにして増強す るとともに、カップリングの交換を行いました。これによって、姿勢変化は 8 画素未満になりました。

図:製作した Folding Mirror 支持具(正面)

図:製作した Folding Mirror 支持具(正面)
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●背景光雑音の減少

1) K-band における背景光のパターン

改修前には、ユーザーから「K-bandの背景光レベルは、固有のパターンがあ り、それがしばしば変化するようだ」という報告がありました。たしかに、 K-band の (Sky Flat / Dome Flat)の画像(参考: 奥村 1998)を見ると、「K-band の背景光は、ある部分を中心にして、同心円状 に外側にむけてレベルが増加する」ように見えます。これは、コールドストップ に瞳像が結像していないことが原因でした。

コールドストップは、赤外線カメラに特徴的な機構で、望遠鏡に入射する天 体とスカイ以外の熱輻射を遮断するものです。これは、冷却されたカメラの内 部に瞳像(主鏡像)をつくり、主鏡周辺からの熱輻射(熱雑音源)を検出器方面に 入射させないために、瞳像位置に瞳像とおなじサイズの穴のあいたマスク(コー ルドストップ)をおくことで実現します。 設置されたコールドストップの位置 に瞳像が結像せずピンぼけの状態になると、熱輻射の遮断が甘くなり、検出器 上には同心円状の背景光パターンがあらわれます。

コールドストップに瞳像が結像しないのは、 前置光学系のコリメータレンズ の挿入位置が、光学設計から要求される位置より数cmずれていたためでし た。そこで、前置光学系の 光学部品配置を光学設計どおりの位置にするととも に、コールドストップの径をφ22mm → φ20mm と少々絞ったものを装着しま した。以上の操作により、同心円状のパターン(こ の場合の中心は画面の左上部分)は消 え、背景光レベルを下げることが出来ました。

2) 迷光の減少

通常の赤外線カメラには、強烈な熱輻射を入射させないためにコールドバッ フルが使用されます。改修前の前置光学系にはコールドバッフルが挿入されて いなかったので、新に設計・製作し装着しました。


図:製作したコールドバッフル(近景)

図:製作したコールドバッフル(遠景)

図:光路を覆ったところ。
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●回転駆動系の停止位置再現性の向上

回転駆動系とは、モーターによって制御されるフィルターターレットや、切 替えミラー、グレーティングの煽り角調整機構を指します。この回転駆動系に は大きく別けて2つの問題がありました。

1) 切替えミラーとグレーティング煽り角の調整モータ間のクロストークの解 決

改修前のOASISでは、「分光/ 撮像切替えミラー を動かすと グレーティングの煽り角が変化する。また、逆 に グレーティングの煽り角を変えると、切替えミラーが動いてしまう」 といった現象が生じていました。これに伴い、分光観測時の波長結像位置がず れていったり、撮像観測時には光軸の変化をもたらすなど、頻繁に微調整を必 要としていました。これは、両方を制御するサーボモータのコントローラ間で 制御パルスのクロストークが生じているのが原因であることが開発チームによっ て突き止められていました。

そこで、モータ制御に当観測所で開発した LCU(Local Control Unit: 通称・ 清水ボード)を採用するとともに、サーボモータからパルスモータ+エンコーダ の組み合せへ交換しました。清水ボードは、これまでに新カセ分光器、 OOPS,91cm反射望遠鏡制御系、188cm反射望遠鏡制御系、FOCAS 等で利用実績が あり、クロストークに伴う問題は報告されていません。実際、改修後の動作試 験では、期待どおりに制御されることを確認しました。

2)フィルターターレット3にともなうケラレの解決

フィルターターレット3には原点だしをするためのマイクロスイッチが装着 されておらず、ターレットを1回転させるのに必要なパルス数が正しく把握さ れていなかったため、数回転させると光軸とフィルター穴の中心位置にズレが 生じ、光路をけってしま うことがありました。この現象は、後に述べるArtificial image の生成とも関連があります。

今回の改修では、マイクロスイッチを装着し、回転数を正しく把握しており ますので、何度回転させても光路をけることはありません。必要に応じて、原 点だしをさせることも出来ます。

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●トラブルの多かったモータドライバの更新
改修前は、Filter Turret 1、2を制御するモータのドライバ・カードが良く故障 しました。原因は残念ながら突き止められませんでした。カードの交換で当初は トラブルをしのいでいましたが、やがて手持のストックが無くなったので、メー カーに発注をかけたところ「既に生産中止品」となっていました。共同利用の維 持のために、なんとか頼み込んでドライバの修理をして頂きましたが、そういつ までも修理を頼んでいるわけにはいきません。

時の推移とともに何時しかモータも時代遅れとなったので、交換のやむなき事態 となりました。直前に、モータ制御系を更新したことを述べましたが、原因は再 現性向上のみならず、改修前のシステムはすでに維持できなくなっていたからで す。今回の改修後は Filter 1,2 にトラブルは起きていません。



●波長指定によるグレーティング煽り角の自動設定

初期のOASISで採用されたサーボモータは、通電している限りは絶体位置が わかるのですが、観測期間がおわって電気を切ると忘れてしまう仕様だったの で、次の観測期間には原点だしはもとより不可避でありました。

今回は、絶体エンコーダを採用したため、グレーティングの位置角と出力値 がユニークに対応しますので、検出器の中心波長を指定することで分光器が自 動的に設定されます。モータ間のクロストークが無くなったことも、波長指定 による自動設定に貢献しています。

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●フィルターターレット3の作り直し ーArtifical image の消去ー

「 OASISで星形成領域を観測したら、 明るい天体にはジェットが あり、しかも位置角はすべて同じ方向である」という報告がユーザーか らもたらされました。画像を見ると、確かにジェット状のフィーチャーが見 られます。

これは、3つの原因が考えられました。1つは、フィルター3の位置における 光束の大きさとフィルター径を比較したときに後者がが小さいこと、2つはフィ ルター固定リングに反射防止のための塗装が施されていなかったこと、そして 3つめはフィルターターレット3の回転機構に再現性が無く、光軸とフィルター 3の中心がしばしばずれてしまうことです。つまり、光束をけるように、むき だしの金属が挿入されている部分で反射された光が2次像を生成したという理 屈です。

3番目の原因については、モーター駆動系の更新にともない解決が施されま したが、1番目、2番目の原因は作り直しによって解決しました。フィルター径 はφ3.8mm → φ5.2mm とし、対応するターレットを作り直し、黒塗装もやり なおしました。改修後は、このような Artificail image は見られません。

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●前置光学系の冷凍機の変更:

望遠鏡の姿勢変化に伴う光軸のずれを解決する過程で、切替えミラーのシャ フトとを G10 から ステンレスに交換しました。これは、より剛性の高い材料 に交換することで強度を持たせようとする措置でしたが、当前のことながらス テンレスのほうが熱伝導率が高いために、カメラ部への熱流入量が増大しまし た。結果として、検出器温度が 90 K 程度までしか下げられなくなるとともに、 前置光学系も200K以下には下げられなくなりました。そのため、K-band で観 測する際には、クライオスタット自身に熱源をもつこととなり、背景光レベル が上昇してしまいましえた。

当事は、カメラ部と前置光学系を熱的に連結し、それぞれに冷凍機を付けて いましたが、冷凍出力はカメラ部のものと比較して前置光学系のそれは小さ かったので、今回の改修では、両者を熱的に切り離し、前置光学系の冷凍機を カメラ部並みの冷凍出力をもったものに交換しました。現在は、前置光学部が 100K、カメラ部が 50Kに到達します。観測に当たっては、ともにヒータで温度 調整して150K, 80K で利用します。


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● Remote 観測への課題の解決 --- その1 ... He 配管のやりなおし

OASISによる観測を remote より行うために残された課題の1つは He 管の とり回しでした。He 管は、188cm反射望遠鏡に装着されたOASISの冷凍機ヘッ ドと、観測床におかれた冷凍機コンプレッサを連結する ガス管のことで、北 ピアから極軸を経由して望遠鏡にいたるように設置されています。観測装置駆 動のケーブル類も He 管と一所に束ねてあります。

改修前は極軸部の固定は2箇所であったため、He 管はたるみを持ち、それが しばしば 15cmの 案内望遠鏡や、 Cassegrain instrument rotator の駆動モー タに、ひっかかるトラブルがあり、実際に案内望遠鏡の突起部に力がかかった り、ケーブルが切れることがありました。

現在は、極軸部の He 管の固定箇所を3箇所に増やすことで He 管の弛みを 少なくし、上記トラブルを避けることが出来ています。

図:Heホースのとり回し(北ピアの東より)

図:Heホースのとり回し(北ピアの西より)


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● Remote 観測への課題の解決 --- その2 ... Dome Flat の遠隔制御
OASISによる remote 観測を実現するために残された課題の2つめは、感度補整 のためのドームフラットを自動で取得することです。 当観測所ではドームフラットの光源にはハロゲンランプを利用しています。 そのランプの明るさは、それに与える電源電圧を変えることで調整します。

改修前は、ランプの明るさの調整は手動で行っていました。撮像モードでは、DC 安定化電源の出力レベルを調整して与え、分光モードでは、商用電源(AC100V)を 直接与えていました。

この度の改修では、このランプ の明るさをPCから制御するシステムを作製し、 LAN経由でPCにコマンドを送ることでAC,DCの切替えと、DC出力の調整を行ってい ます。すでにバンド(フィルター)毎に最適なフラットを取得するための、光源の 明るさ(電源電圧)と露出時間の表が作製されていますので、OASISの撮像モード の Dome Flat 取得操作は自動で行われます。

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● 観測環境の向上

OASISで利用している2台の冷凍機コンプレッサは水冷式ですので、冷却水の がコンプレッサより得た熱をうばうためのチラーを併用しています。このチラー をドーム床において利用していました。1台のチラーから排出された熱は、ス イデンのファンで強制的にドーム外へ出していましたが、前置光学系冷却用に 新に加えた冷凍機用チラーの熱は、暫くの間ドーム内部に排出していました。 これでは、シーイング悪化装置として機能してしまいます。

そこで、現在はチラーを1階の北ピア室にうつし、冷却水循環用ホースはドー ム床に新設した冷却水専用の穴を通して、2階の観測ドーム内に導いています。 北ピア室には排熱のためのファンを付けてあり、ここよりドームの外へ熱を捨て ています。

可視光域でのシーイングの調査にもとづく予測では、近赤外(2 micron)のシー イングは、どんなに悪くても 2 arcsec であり、1/3 の確率で sub-arcsec に なるはずです。

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この報告の文責
文責:柳澤 顕史