第16回天体スペクトル研究会 講演予稿集
(順不同)

(1)小石川正弘(仙台市天文台)  「超新星及び新星の追跡観測体制について」
国内で発見される超新星及び新星の追跡体制は、発見者と観測者の信頼関係によって行われている。その確定に際しては、分光観測によって行われている。
国内で発見されたそれらの天体の確認体制の確立を目指したいと考えている。あわせて仙台市天文台の分光器を紹介する。

(2)竹田洋一(国立天文台 光赤外研究部)  「太陽並びに恒星の差動自転の分光学的研究」
京大飛騨ドームレス太陽望遠鏡の水平分光器+ヨードセルで太陽ディスク面の 分光観測を行い、視線速度から太陽の差動回転則を決定したので報告する。
またスペクトル線輪郭解析から恒星の差動自転を探る試みについても紹介したい。

(3)海老塚 昇(名古屋大学工学研究科附属プラズマナノ工学研究センタ−)  「すばる望遠鏡および次世代大型望遠鏡用の新しい回折格子」
VPH (volume phase holographic) gratingは1次回折光において、sまたはp偏 光に対して最高100%の高い効率を達成する。
しかし、VPH gratingは次数が高 くなるのに従って回折効率が低下する。
我々はEchelle分光器用の厚いBinary gratingやQuasi-Bragg grating、新しい格子形状のImmersion gratingの実用 化を計画している。


(4)今村和義(岡山理科大学)  「SBIGの分光器 その3 ―SGSによる輝線星の観測― 」
これまで我々はSBIG社の小型分光器SGS (R~600 and R~2500)について、2005年と2006年に当研究会で報告を行ってきた。
またこれとは別に、我々はSBIG社のDSS-7 (R~400)を用いて、様々な輝線天体 (Be星、AGN、Wolf-Rayet星、新星など)の分光観測を行い、成果を上げてきた。
これらの蓄積と経験より、2011年から本格的にSGSを用いて天体を導入し、いくつかの輝線星についてテスト観測を行ったので、その結果を報告する。

(5)奥嶋貴子(広島大学) 「非常に赤いType IIb SN 2010giの早期観測」 
我々は、広島大学1.5mかなた望遠鏡および京都産業大学1.3m荒木望遠鏡を 用いてType IIb SNであるSN 2010giの測光・分光観測を行った。
本講演で は、SN 2010giの膨張大気の構造や物理的特性について議論する。

(6)山中雅之(広島大学) 「極めて明るいIa型超新星SN 2009dcの観測的研究」
極めて明るいIa型超新星SN 2009dcを可視近赤外波長で約1年間に わたって観測した。
過去2例の同様のイベントと比較を行い、我々 の観測により明らかになった現象について議論する。

(7)西村昌能(京都府立洛東高等学校) 「黒点の発生を捉えた(AFSの視線速度測定生徒実習)」
洛東高校では京大花山天文台・太陽館のシーロスタットと高分散分光器 で例年、夏休みの5日間を利用して太陽表面の高分散分光観測を生徒実習として行っている。
今年は、黒点発生時に見られる磁力線(フィラメント)の持ち上がり(浮上磁場領域、アーチフィラメントシステム) の視線速度をHα線で観測できたので報告する。


(8)荒木 宣雄(愛媛大学) 「遠方宇宙における超巨大ブラックホール質量の測定」
銀河中心に存在する巨大ブラックホールがどのように成長してきたかという問題は、 宇宙の進化を考える上で重要である。
そこで本研究ではz=3.16のブラックホール質量 をスペクトルのデータを用いて導出した。

(9)片平順一(財団法人大阪科学振興協会 中之島科学研究所) 「Be末期のプレオネのCaIIK線プロフィール」
プレオネCaIIK線はBe期には非常に弱くなるため、プロフィール変化の議論は 行われてこなかった。
美星天文台での3回の中分散観測と同時期のELODIEなどの 高分散観測とを合わせて、プロフィール変化を試みに論じてみる。

(10)福江 純(大阪養育大学)  「輻射輸送の復活 」

日本における輻射輸送の分野は、長い伝統をもつ欧州と比べ、 後継者の育成や研究面(とくに理論計算)など、衰退が著しい。
しかし、太陽・星や、降着円盤、宇宙初期、系外惑星など、 非常に多くの分野で精密観測が進んできた現在では、 輻射輸送の手法がますます重要になるのは間違いない。
日本における輻射輸送分野の復活をかけて、 若い研究者の育成プログラムを提案するとともに、 スキルやノウハウをもったシニアへの協力を呼びかけたい。

(11)秋澤宏樹(姫路市宿泊型児童館 「星の子館」)  「「星の子館」のスペクトル観測イベントについて 」

「星の子館」では、平成19年度にSBIG社DSS7を導入し、 本研究会においても「星の子館の分光観測事始め」(秋澤・木舟・小関?第13回集録 pp.143-144)で皆様からご助言を頂くことができた。
それを参考に観測実習を開催 しているので報告したい。

(12)新中善晴(京都産業大学) 「可視光高分散分光観測による彗星アンモニアのオルソ/パラ比サーベイ」
太陽系形成初期の環境を明らかにするために、「太陽系の化石」と呼ばれる彗星の研究は有用である。
本発表では、彗星の概要や分子形成温度に依存するオルソ/パラ比についての最新の研究について発表する予定である。

(13)奥村真一郎(日本スペースガード協会)  「安価な市販分光器を利用した小惑星スペクトルサーベイ計画」
小惑星のスペクトルサーベイを主たる目的とし、 既製品の分光器とCCDカメラ(SBIG社のDSS-7、ST-8E)、小口径望遠鏡を利用した小型分光システムの開発を進めている。
システムの概要と開発状況について紹介する。


(14)蔵本哲也(京都大学) 「弱輝線Tタウリ型星V773 Tau の近星点通過時における巨大フレアの多波長同時観測」
弱輝線Tタウリ型星V773 Tauは分光連星であり、近星点通過時に巨大フレアが発生する。
我々はこのフレアの多波長(電波・可視光・X線)同時観測を計画している。この研究を、可視光部分を中心に紹介したい。

(15)高木良輔(岡山理科大学)  「食変光星β Lyrの低分散分光ならびに多色測光観測」

β LyrはAlgolに次いで明るい食変光星である.しかしこの星はEB型食変光星のプロトタイプであるにもかかわらず,その伴星が星間物質に取り囲まれているため,
太陽質量の10倍を超えることを除くとその本性は謎に包まれている.

そこで我々はこの星の低分散分光と多色測光の同時観測を行い,スペ クトル線の時間変化の検出を試みた.
その結果,HαとHeIの輝線の等価幅の変動は,食と相関がある一方この2つのあいだでは異なった振る舞いを 示すことが認められたので報告する.

(16)小倉和幸(大阪教育大学) 「高分散分光器LHIRES IIIを用いた観測方法の確立と性能評価」
アマチュア向けにフランスで開発された分光器LHIRES IIIを用いて分光観測を 行なうにあたっての調整と試験観測の経過を報告。

(17)近藤荘平(京都産業大学) 「次世代近赤外高分散分光器「WINERED」の開発」

「WINERED」(λ=0.9-1.4 μm,R=100,000)は京都産業大学と東京大学の共同で開発を進めている次世代近赤外高分散分光器である。
本発表ではWINEREDの設計コンセプト、仕様、及び現在の開発状況を報告する。

(18)小暮智一(京都大学OB) 「Be星 EW Lac のV/R変動期(1975 - 1985)における円盤の振る舞 い」

EW LacのV/R変動時における円盤の振舞を調べるために、OAO分光写真を解析した。
輝線とガス殻吸収線の両面の解析からV/R変動は内部構造をもつ密度波で、その伝播 は順行であることを示す。

(19)定金晃三(大阪教育大学) 「ぎょしゃ座εの連続分光観測:2010年のいくつかの成果」
我々は岡山とぐんま天文台で ぎょしゃ座εの連続分光観測を過去3年継続して いる。
今回は2010年(食の中央期)に得られたいくつかの成果を速報的に報告 したい。

(20)新井 彰(京都産業大学) 「京都産業大学における突発天体の分光同定とモニター観測」
京都産業大学では2010年から1.3m望遠鏡を用いた突発天体 現象の即応分光観測を開始した。講演では主に激変星について増光発見直後 からの低分散分光観測の意義を紹介し、最近の観測結果を報告する。

(21)中山 浩(京都市立堀川高等学校) 「総合的な学習の時間における『天体スペクトル』学習の流れ 」
堀川高校における総合的な学習の時間(探究 基礎)では,地学ゼミに所属した生徒全員が1年次に天体分光についての手法を学んでいます。
2年次の自由研究を行うための準備として位置づけた, その取り組みを紹介します。

(22)新崎貴之(京都産業大学)「神山天文台 線スペクトル偏光分光観測装置LIPS」
京都産業大学神山天文台の1.3m望遠鏡で運用を予定している高分散 偏光分光観測装置(=LIPS)について紹介する。
観測波長域は400-900nm 波長分解能はR<10,000、偏光度ΔP<0.1%を達成する装置であり
主に恒星状天体の輝線および吸収線プロファイルの直線偏光情報から 星大気や星周ガスの密度分布や速度場を得る事を目的としている。

(23)松本 桂(大阪教育大学) 「天体のデジタルスペクトルアトラスに向けた色データベースの作成」
情報機器の普及により天文分野におけるカラー画像も多くなった.スペクトル とは波長(色)ごとの強度分布であるので,スペクトルから天体の正しい色を再 現し,天体のスペクトルデータと色をまとめたデータ集の作成を行なっている.

(24)前原裕之 (花山天文台)「花山天文台での新星確認観測 」
花山天文台で行なっている、安価な分光器のSBIG社のDSS-7を用いた新星の確認観測の現状や結果について紹介する。