180 昭和28年5月6日 内閣総理大臣 吉  田      茂 殿 日本学術会議会長 亀  山  直  人 原子核研究所の設立と反射望遠鏡の設置について 基礎科学の研究は直接の実用を目的とするものではありません が、あらゆる進歩の源泉であり、人類の将来の運命を決する重大 な要素であります。然るに我が国の現状においては基礎科学の研 究が甚だしい悪条件の下におかれており、急速の進歩を遂げつゝ ある諸外国の研究から今や取残されようとしております。本会議 は政府がこの際基礎科学育成の重要性を認識され、その振興のた め格別の考慮をはらわれるよう希望致します。特に今日物理学な らびに天文学においては、別紙の如き趣意の原子核研究所 の設立と反射望遠鏡の設置が緊急且つ欠くべからざるものとして 切実に要求されております。 本会議は政府が基礎科学全般にわたって研究費の増額をはかる 事はもとよりとして、この二件に対し特別の予算措置を講ぜられ るよう強く要望いたします。 以上本会議第14回総会の議により申し入れます。 庶 発 第248号 昭和31年5月9日 内閣総理大臣 鳩  山 一  郎 殿 日本学術会議会長 茅      誠  司 天体物理学の振興について 天体物理学の研究は、欧米において最近画期的な発達をとげ、 なお、急速に進歩の一路をまい進しつつあります。これに対して、 わが国における天体物理学の研究は、現在の施設では甚だしくこ の進歩におくれていることは遺憾にたえません。よって、政府に おいては天体物理学の振興のために、全国共同利用として、さき に予算の確定をみた恒星分光用の74インチ反射望遠鏡を主体とす る天体物理学の研究施設を早急に増強補足されるよう、ここに本 会議第2回総会の議により要望します。 理    由 a 天体物理学は古代から発達した幾何学的、力学的な天文学に 対し、光、電波、その他の諸方法を駆使して諸天件の態様を明 らかにするとともに、諸天体及び宇宙の構造及び進化を論じ、 現代の自然科学的宇宙観の根底を確立しようとする天文学の新 しい分科である。 s 天体物理学上の諸発見は、例えば天体スペクトルの観測から 量子物理学の基礎の確立に、あるいは恒星内部構造の研究から 原子核融合反応の概念に到達したように、きわめて本質的な重 要な意義をもっている。 d 天体物理学は、宇宙に実在する諸種の極端な状態、急激な変 化及び広大な空間等を天然の実験室と考え、ここにおいて物理 学的科学の話法則、諸原理の発見及び験証をし、物理学的科学 の重要な基礎となっている。一般相対性理論の確立、量子力学 における縮退ガスの実証等はその例である。 f 以上のように、天体物理学は文化の高揚及び科学の振興にと って必要欠くことのできないものであるにもかかわらず、わが 国においてはその発達が諸外国にくらべていちじるしく立遅れ ており、更にわが国の自然科学の他の諸分科にくらべても遅れ ていることは、他の科学諸分科の発達をも阻害し、わが国の科 学及び一般文化の振興に重大な障害を与える憂いがある。 天体物理学の振興のためには、以下の諸研究を遂行すること が必要であると考える。 研究事項 恒星分光測光、恒星分光分類、恒星測光、太陽系物理、太陽 分光測光、太陽電波、宇宙電波、銀河構造、変光星物理、稀薄 天体物理、天体大気構造、天体内部構造 なお、上記の研究を行うためには、今後10年計画で以下のよう な研究施設を整備することが必要と考える。 研究施設 過般予算措置を講ぜられた74インチ反射望遠鏡を主体として 36インチ光電赤道儀のほかに 36インチ天体反射鏡写真儀、 36インチシュミットカメラ、 クーデ型太陽分光装置、 天体電波望遠鏡、 天体電波干渉装置、 並び測定器械コンパレーター、 自記測微尺測光計、測光計、 及び分光学実験装置 第6章 岡山天体物理観測所の設置 および 環境保持に関する参考文書 日本学術会議より政府への要望 天体物理学の振興について
181 74吋反射望遠鏡設置に関する覚書 東京大学東京天文台(以下「天文台」という。)の74吋反射望 遠鏡設置について確実な履行を期するため、文部事務次官(以下 「甲」という。)と岡山県知事(以下「乙」という。)との間に、 次の事項について協定し、後日のための覚書として相互に保管す るものとする。 昭和32年3月19日 甲  文部事務次官    稲  田  清  助 乙  岡山県知事      三  木  行  治 1  土  地 a  敷  地 乙は、甲が天文台敷地(敷地内の樹木を含む。)として指 定する約15万坪(岡山県浅口都及び小田郡にまたがる竹林寺 山。別紙図面*1のとおり。)を、関係町において無償で甲に 提供するよう措置させるものとする。但し、地方財政再建促 進特別措置法第24条第2項により、町が甲に寄附することが できないので、無償永久貸与させるものとする。この場合、 関係町長からそれぞれの敷地内の樹木の無償伐採について願 出があったときは、甲は観測に必要な環境保持に差支えない 限り、これを承認するものとする。 b  保有地 @ 森林地帯の保持 現在、竹林寺山を中心として約60万坪が保安林として指 定されているが、更に甲において必要とする地域(別紙図 面*1のとおり。)については、乙は保安林指定のための措 置を講ずるものとする。但し、浅口郡鴨方町大峠池附近、 金光町大字上竹の一部及び薬師寺の地域(別紙図面*1の とおり)は除くものとする。 A 環境及び風致の保持 イ  乙は、観測に必要な環境を保持し、かつ、附近の風致 を維持するために、天文台中心より半径2km面積約360 万坪(別紙図面*2のとおり。)について、可及的速かに 都市計画法施行令第13条の規定による措置をとるものと する。但し、金光町及び矢掛町は都市計画法未施行地に つき、両町の同意のもとに、早急に法の適用を受け、上 記の措置をとらせるものとする。 ロ  乙は、遥照山及びその附近について、観光的開発が行 われようとするときは、天文台と十分協議し、観測に必 要な環境保持に反しないようにするものとする。 ハ  金光町、鴨方町、矢掛町及び特に甲が希望する他の地 域における照明広告(ネオン等)については、乙は屋外 広告物条例を適用し必要な統制を行うとともに、一般の 灯火についても、乙は関係町と共同して観測に支障のな いように措置するものとする。 二  観測上の必要により指定された鉱区禁止地域について 将釆問題を生じたときは、その解決のため、乙は誠意を もつて甲に協力するものとする。 2  道路及び橋梁 a  乙は、甲の指示する重量、容積の資材の運搬に支障のない ように道路及び橋梁(県道)を整備するものとする。なお、 工事は、昭和31年度から着手し、建設工事に支障のないよう にするものとする。 b  乙は、県道矢掛鴨方停車場線分岐点から天文台敷地内を含 む道路及び駐車場(別紙図面*3のとおり。)については、と れを新設舗装し、でき得る限り県費補助工事として関係町に おいて施工させるものとする。なお、通路の新設は、建設工 事に支障のないように実施するものとする。 3  敷地の整地及びさく井 a  整  地 乙は、建物その他施設の建設敷地(別紙図面*3のとおり。) の整地を甲の指示する時期までに、関係町において施行させ るものとする。 b  さく井 乙は、その負担において、井戸1個をさく井して建設工事 に支障のないようにするものとする。その他の水源について は、乙の負担において、昭和31年度から調査に着手し、事後 の措置については、甲乙協議するものとする。 4  建  物 a  集会所 乙は、集会所(別紙図面*4のとおり。)1棟(100坪−150 坪)を甲の必要とする時期までに建設し、1のaの但書の趣 旨により、甲に寄付することができないので、無償永久貸与 するものとする。 b  展示館 乙は、展示館(別紙図面*5のとおり。)を建設整備し、1 のaの但書の趣旨により、甲に寄付することができないので、 無償永久貸与するものとする。 5  電  気 乙は、中国電力株式会社配電線路から天文台敷地内に至る間 の高圧電力(使用電力量は常時100kwとする。)引込線を、同会 社から寄付させるように努力するものとする。 なお、工事は、建設工事に支障のないように実施するものと する。 6  電  話 乙は、甲の負担において架設する電話について、甲の必要と する期日までに3回線の架設が完了するように、誠意をもって 努力するものとする。 74吋反射望遠鏡設置に関する覚書細目 74吋反射望遠鏡設置に関する覚書(以下「覚書」という。)の 条項中、細部について次のとおり定める。 1  敷  地(覚書1−a) 天文台敷地約15万坪は、岡山県において必要な実測(借地契 約に伴う必要な分筆地の実測を含む。)を行い、これに基いて その面積を確定するものとする。 2  道路及び駐車場(覚書2−b) 天文台敷地内の道路は、幅員約4mとし、そのうち、3m以上 を強じんなコンクリ−トまたはアスフアルト舗装とし、コンク リ−トの場合にはその厚さを約20cmとするものとする。駐車 場についても、道路に順ずるものとする。 3  さく井(覚書3−b) 建設工事として必要な水量は1日150石を目標とし、井戸の 位置は建設現場に可及的接近してさく井するものとする。 4  敷地内の樹木の無償伐採についての関係町長の願出は、この 覚書の交換された当時所有者であつた者からの申出によるもの とする。 5  将来、地方財政再建促進特別措置法が失効した場合には、敷 地内の樹木の伐採については、甲乙協議して定めるものとする。 *図面の掲載は省略する。 観測所と社会のかかわり 74吋反射望遠鏡設置に関する覚書
観測環境保持について、(上)岡山県宛て、(下)広島県宛て 182 昭和38年9月4日 岡山県知事  三  木  行  治 殿 東京大学総長  茅      誠  司 岡山天体物理観測所の観測環境保持について(依頼) 本学東京天文台岡山天体物理観測所は昭和35年10月斯界の大き な期待のもとに完成きれ、爾来本学の研究者は勿論広く天文学者 によって利用され着々と研究の成果を挙げ、日本天文学の発達の ためのみならず、ひいては世界の天文学発達のために頁献しつつ あるのであります。 省みまするに本観測所の反射望遠鏡は、昭和28年目本学術会議 の決議と当時の国際天文学連合副会長スイングス教授の強い主張 とによって、その必要性が日本政府に認められ、また岡山県当局 ならびに岡山県民諸氏の絶大なるご協力によって設置の実現をみ るに至ったものであります。ご承知のように精密な天体観測をす るためには都会の燈火や、煤煙や振動の障害を受けることのない 良き環境を必要とするのでありまして、岡山の今の地が選ばれた のも全くその理由によるものであります。しかるところ最近に至 り、貴県内において水島工業地区の開発が行なわれ、同地が-大工 業地区としてその発展が期待されておる由、もとより工業地区の 発展は人数の福祉にとりきわめて重大なことであります。また、 天文学は科学の発達に不可欠の要素であり、しかも日本はヨーロ ッパ・アメリカと共に地理学的にみて、鼎の3脚をなしておりま すので、天文学の進歩にとっては日本の研究が是非とも必要なの であります。つきましては、水島工業地区の発展を期すると共に 本観測所む環境も保持されますよう其の具体的な方途について別 途パンフレットの如く本学においても検討中でありますが、貴県 においても関係団体と此の点ご協議ご検討の上、岡山天性物理観 測所の観測環境ができるかぎり保持されますよう貴台の格別なる ご配慮を煩し度くお願い申し上げる次第であります。 敬  具 昭和38年9月15日 広島県知事  永  野  厳  雄 殿 東京大学総長  茅      誠  司 岡山天体物理観測所の観測環境保持について(依頼) 本学東京天文台岡山天体物理観測所は昭和35年10月斯界の大き な期待のもとに完成され、爾来本学の研究者は勿論広く天文学者 によって利用され、着々と研究の成果を挙げ、日本天文学の発達 のためのみならず、ひいては世界の天文学発達のために貢献しつ つあるのであります。 省みまするに本観測所の反射望遠鏡は、昭和28年目本学術会議 の決議と当時の国際天文学連合副会長スイングス教授の強い主張 とによって、その必要性が日本政府に認められ、設置の実現をみ るに至ったものであります。ご承知のように精密な天体観測をす るためには都会の燈火や、煤煙や振動の障害を受けることのない 良き環境を必要とするのでありまして、岡山の今の地が選ばれた むも全くその理由によるものであります。しかるところ最近に至 り、貴県内において福山工業地区の開発が行なわれ、同地が一大 工業地区としてその発展が期待されておる由、もとより工業地区 の発展は人数の福祉にとりきわめて重大なことであります。また、 天文学は科学の発達に不可欠の要素であり、しかも日本はヨーロ ッパ・アメリカと共に地理学的にみて鼎の三脚をなしております ので、天文学の進歩にとっては日本の研究が是非とも必要なので あります。つきましては、福山工業地区の発展を期すると共に本 観測所の環境も保持されますよう其の具体的な方途について別添 パンフレットの如く本学においても検討中でありますが、貴県に おいても関係団体と此の点ご協議ご検討の上、岡山天体物理観測 所の観測環境ができるかぎり保持されますよう貴台の格別なるご 配意を煩し度くお願い申し上げる次第であります。 敬  具 土地調整委員会告示第1号 鉱 区 禁 止 地 域 指 定 土地調整委員会設置法(昭和25年法律第292号)第23条第1項の 規定により、鉱区禁止地域の指定をしたから、同条第4項及び土 地調整委員会設置法施行規則(昭和26年土地調整委員会規則第2号) 第9条第1号の規定により、次のように公示する。 昭和32年1月17日 土地調整委員会委員長 大  池      真 1.指定番号  指定第52号 2.指定公示の年月日  昭和31年10月9日(土地調整委員会告示 第13号) 3.請求著名文部大臣清瀬一郎 4.鉱物の名称鉱業法(昭和25年法律第289号)第3条に規定す る鉱物全部 5.地域の所在地岡山県浅口郡金光町・鴨方町及び同県小田郡矢 掛町各地内 6.地域及び地域図 (省  略) 7.地域の面積1,158.21ヘクタール 8.指定の理由次の諸事情を考慮し、指定地域内忙おいて鉱物を 掘採することは適当でないと認められる。 a 天文学特に天体の観測においては、国際的協力の下にこれ を行うことが必要である。殊に欧米と昼夜を異にする日本の 位置は極めて重要であって日本における観測が得られなけれ ば連続観割に間隙を生ずる結果、天文学の進歩は到底望むこ とはできない。よって、米国の200吋及び100吋並びに欧州の 98吋に対応して日本にも相当大口径の反射望遠鏡を設置する 必要があるとの内外天文学界多年の要望に応え、今回指定地 域の中央部に有効直径74吋を主鏡とする反射望遠鏡が設置さ れることとなったものであるが、その機能及び構造に鑑みて これが保護に万全を期し、もって国際的協力の実を挙げる必 要があるものと考えられる。 s 反射望遠鏡を使用して行う天体観測は、主として極めて遠 方にある天体の微弱な光を捉えて行う各種の精密な研究であ って、このためには望遠鏡の機能を十分に発揮できる場所に これを設置することが必要である。よって場所決定の必須条 件として挙げられている 夜間の快晴日数が多いこと 星像 の形状及び安定性が良好なること 大気の透明度が良好であ ること 積雪及び高温度を避けること 地震が頻繁に起らな いこと 海岸からの温分を含む風が直接に当らないこと 都 会及び市術地の燈火群から十分に離れていること 望遠鏡及 び附属諸施設を置くための適当な土地が得られることの各項 目にわたってあらゆる科学的資料に基いて調査した結果、静 岡、長野及び岡山の三県を有力候補地としてこれをとり挙げ、 更にこの三候補地において小望遠鏡による実験観測を行った 結果、本指定地域が最も適当であることが認定されたのであ る。 d 指定地域は、74吋反射望遠鏡設置場所を中心として半経約 2キロメートルの範囲である。この地域は望遠鏡の機能を阻 害する人工的土地振動を回避するための最少限度のものであ って、この地域内においては、その機能の万全を期するため、 鉱物の掘採による土地の振動等はこれを排除する必要がある と考えられる。 f 指定地域内には、鉱物の賦存が若干予想または確認されて いるが、前記の重要怯に対比して鉱物の掘採が特に必要であ るとは考えられない。 第6章 鉱区禁止指定