159 40年前の1960年10月23日、京大で開かれた天文学 会秋季年会のエクスカーションのような形で、開所 したばかりのOAOの見学会が行なわれ、学会出席 者中の100人ほどが、京都から鴨方へ移動した。そ の一人であった私が初めて目にした188cm望遠鏡 と、それを容れるドームの威容に心を躍らせた記憶 は、今なお鮮烈である。 東京天文台の年次報告を見ると、62年度に観測プ ログラムによる188cmの本観測が開始されて以来、 毎年度のテーマと観測者が記載されている。ニュー トン焦点での銀河撮像だけでも、北大・東北大・東 大・東京学芸大・名大・岐阜大・京大等の各グルー プが、一般銀河の他、セイファート・クェ一サー・ スターバースト・コンパクト等各種の特殊銀河、お よび銀河団を対象とした観測に、こもごも取組んで きた軌跡を一覧することができる。 昔話になるが、60年代初期は文部省科学研究費の 交付がかなり普及してきた頃で、私たち恒星系・銀 河関係のグループでも、総合研究費の配分を受けて、 夏休み期間などを利用した泊りがけ研究会の開催が 恒例となってきていた。研究会がOAOでの観測に ついての検討の場となったことはいうまでもない。 木曽のシュミットや、国立天文台のすばるが実現す る原動力となった望遠鏡将来計画の討論も、研究会 の大きなテーマであった。 紙数が限られているので、ここでは私自身と周辺 グループの、銀河観測研究の跡を回顧するにとどめ たい。私が65年にニュートンでの銀河撮像を始めた 当初は、各種形態分類型の銀河ごとに、長軸ぞいの 表面光度曲線の標準パターンが決められないかとい うことを考えていた。もしそれができれば、ある型 で距離が既知の銀河の光度曲線と、同一型一般銀河 のそれとを比べることで、後者の距離もわかること になる。しかし、銀河ごとの光度分布はまことに多 様複雑であることがわかり、私の考えが甘かったこ とを思い知らされた。60年代末のちょうどその頃、 シュミット望遠鏡の建設が具体化し、一挙に多くの 測光サンプルを得る可能性が見えてきて、何とか研 究の希望をつなぐことができた。 私たちに続いて銀河の写真測光と取組むようにな った岡村・濱部らのメンバーと、銀河の光度階級対 測光特性の相関に興昧をもった小平・家らのメンバ 研  究 銀河の撮像観測 高瀬文志郎 東京大学東京天文台名誉教授
160 ーが合流して、東大での銀河グループが統合され、 岡山・木曽の望遠鏡による、諸波長帯での銀河写真 がしだいに蓄積されて行った。折から、計算機によ る二次元表面測光解析の方式が岡村によって確立さ れ、濱部・渡辺(正明)はこれを改良した。一方、 家は渦巻き銀河の渦状パターンのモード解析を試 み、これらの研究から、銀河の測光データを定量的 に解析しようという機運が高まって、山縣を加えた 上記メンバーで、諸銀河の表面測光解析が精力的に 進められた。得られた成果の概要と代表的な銀河サ ンプルが、出版物 にまとめられている。 木曽シュミットでサーベイを始めた紫外超過銀河 (KUG)の構造特性を知るため、私は80年度から対 象をKUGに切り替えて、野口の協力のもとに、岡 山でのニュートン撮像を続けることになった。ニュ ートン像のスケール全23″/mmはシュミット像の3 倍あり、銀河の形や構造を詳しく見るには、当然こ ちらの方がすぐれている。シュミットの3色像とニ ュートン像をつき合わせることで、KUGのどの部 分がどのように青いかがよくわかり、形態の特異性 と青さの関連も知ることができて、KUGの形態分 類システムが確立した。 私のOAOでの観測は定年の83年度で終ったが、 それはちょうど、画像検出器が写真乾板からCCD へと急速に移行して行くさ中であった。ニュートン での撮像も、86年からはCCDが主となり、乾板使 用は87年で終っている。また撮影中のガイドも、望 遠鏡の筒先に近い焦点部にはりついての昔ながらの やり方から、制御室での計算機制御に変わった。し かし私たちの世代にとってのニュートン観測とは、 あの高い観測台の上に立ち、ドームスリットの広い 開口部を通して、空の星座と直接に対峙しながらガ イドを続けていく作業のイメージである。ガイド中 のバックグラウンド音楽にしても、まだCDのない 頃だったので、階下の待機室ヘインターホンでリク エストしては、プレーヤーにかけてもらうレコード 曲を、ドーム内のスピーカーで聴くという流儀であ った。今でも、ドームで聴いた曲がふと耳底によみ がえり、それとともに当時の観測風景を懐かしく思 い出すことがある。 * B.Takase, K.Kodaira and S.Okamura ed:An Atlas of Selected Galaxies, with Illustration of Photometric Analysis, Univ. of Tokyo Press, 1984. 第5章 図5−12 ニュートン観測風景(1965年頃)