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1950年代から始まった銀河の系統的探査は1970年
代には、1分角サイズ以上、可視光で15等より明る
いものについては、天の川領域を除いて、完了して
いた。1980年代には、これらの銀河の系統的な視線
速度測定により、10,000km/sまでの銀河分布の大
規模構造が明らかになり、宇宙論へのインパクトを
与えた。 一方、宇宙背景放射の観測から、局所銀
河群が、銀経280度、銀緯27度の方向に約600km/s
で動いている特異運動が確かめられ、巨大引力源が
銀河面の銀経320度付近に存在すると考えられた。
このような状況を考慮して、私たち京都大学宇宙
物理学教室のグルーブは、銀河の探査が著しく不完
全であった天の川領域について銀河探査をおこなっ
た。探査は、まずシュミットプレートなどを用いて
銀河候補を同定し、それらの視線速度を、岡山をは
じめいくつかの光学・電波望遠鏡を用いて測定し
た。主な結果と意義を、銀河同定の3つの方法に分
けて記す。
1.シュミットプレートによる系統的銀河探査
シュミットプレート上を隈なくルーペや顕微鏡で
調べて銀河を探し出す仕事は、1989年から始め、天
の川領域約2,470平方度(天の川の5分の1以上)
で30,000個余りの銀河候補を同定した。これらの天
体のうち現在までに視線速度測定されているものは
数%にすぎないが、この観測により、同定した天体
が銀河である率は90%以上であると推定している。
データは5つのカタログとして出版され、また世界
各地のデータベースに入っている。
探査領域が主に南天であるため、岡山での視線速
度の測定数はあまり多くない。Yamada, Saito
(1993)は、いっかくじゅう座(銀経220度付近)で
32個の視線速度を測定し、11,000km/s付近に銀河
集団が存在することを見出した。この観測は、
188cm鏡ではじめておこなった暗い銀河の視線速度
測定であり、カセグレン分光器とガイドカメラに
CCD検出器を取り付けた装置による銀河探査が可
能であることを示した。
Roman et al.(1998)は、銀河中心に近い銀経20
度から40度までの銀河探査の空白域で78銀河の視線
速度測定に成功し、局所空洞の南の境界を確定した。
この系統的銀河探査の最も重要な成果は、とも座
研 究
天の川に隠された
銀河の観測
斎藤
衛
京都大学名誉教授