161 1950年代から始まった銀河の系統的探査は1970年 代には、1分角サイズ以上、可視光で15等より明る いものについては、天の川領域を除いて、完了して いた。1980年代には、これらの銀河の系統的な視線 速度測定により、10,000km/sまでの銀河分布の大 規模構造が明らかになり、宇宙論へのインパクトを 与えた。 一方、宇宙背景放射の観測から、局所銀 河群が、銀経280度、銀緯27度の方向に約600km/s で動いている特異運動が確かめられ、巨大引力源が 銀河面の銀経320度付近に存在すると考えられた。 このような状況を考慮して、私たち京都大学宇宙 物理学教室のグルーブは、銀河の探査が著しく不完 全であった天の川領域について銀河探査をおこなっ た。探査は、まずシュミットプレートなどを用いて 銀河候補を同定し、それらの視線速度を、岡山をは じめいくつかの光学・電波望遠鏡を用いて測定し た。主な結果と意義を、銀河同定の3つの方法に分 けて記す。 1.シュミットプレートによる系統的銀河探査 シュミットプレート上を隈なくルーペや顕微鏡で 調べて銀河を探し出す仕事は、1989年から始め、天 の川領域約2,470平方度(天の川の5分の1以上) で30,000個余りの銀河候補を同定した。これらの天 体のうち現在までに視線速度測定されているものは 数%にすぎないが、この観測により、同定した天体 が銀河である率は90%以上であると推定している。 データは5つのカタログとして出版され、また世界 各地のデータベースに入っている。 探査領域が主に南天であるため、岡山での視線速 度の測定数はあまり多くない。Yamada, Saito (1993)は、いっかくじゅう座(銀経220度付近)で 32個の視線速度を測定し、11,000km/s付近に銀河 集団が存在することを見出した。この観測は、 188cm鏡ではじめておこなった暗い銀河の視線速度 測定であり、カセグレン分光器とガイドカメラに CCD検出器を取り付けた装置による銀河探査が可 能であることを示した。 Roman et al.(1998)は、銀河中心に近い銀経20 度から40度までの銀河探査の空白域で78銀河の視線 速度測定に成功し、局所空洞の南の境界を確定した。 この系統的銀河探査の最も重要な成果は、とも座 研  究 天の川に隠された 銀河の観測 斎藤 京都大学名誉教授
162 に最近傍銀河団(2,500km/s付近)を発見したこと である。とも座の銀河観測は岡山では残念ながらむ ずかしく、視線速度測定はオーストラリアのストロ ムロ山天文台とフランスのナンセイ電波天文台でお こなった(Yamada et al.1994)。 2.IRAS銀河の系統的探査 1990年当時、IRASの全天サーベイのデータから、 銀河の赤外線での特性が明らかにされてきた。 IRASデータをもとにすれば、天の川の内外で銀河 の検出率にそれほどの差がでないのではないかとい う考えが山田から堤案され、天の川全面でのIRAS 銀河(星形成中の銀河=ほとんど過巻き銀河)の探 査が始まった。検出した銀河(候補)の視線速度測 定は主に岡山でおこない、500個程度の銀河を確認 した。これらの銀河のパラメータは、3つのカタロ グにまとめられている(Yamada et al.1993,Takata et al.1994,Nakanishi et al.1997)。 IRAS銀河探査の結果は、Takata et al.(1996)に まとめられている。図5−13に天の川域(銀緯−15 度から+15度)での視線速度10,000km/s以内の銀 河分布の大規模構造が見事に示されている.この結 果から、局所銀河群の特異運動の原因を考察できる。 SGZ方向(銀経60度と240度方向)では、銀経240度 付近のとも座銀河団と逆方向にある局所空洞による 重力のアンバランスによって局所銀河群は240度の 方に引かれる。SGX方向では銀経150度のペルセウ ス座超銀河団と銀経320度付近のうみへび座・ケン タウルス座超銀河団の距離差による重力の差で、局 所銀河群は320度の方に引かれる。この重力のベク トル和こそ銀経180度方向への特異運動の原因とな りうる。IRAS銀河探査からはこの他、Nakanishi et al.(1997)による局所空洞構造の確定や、Takata et al.(1994)による最も近い(z=0.1)クエーサーの 発見などの成果がでている。 3.可視光では見えない銀河の探査 上に述べた研究によって、天の川領域では、可視 光での銀河の検出率は、天の川内の水素原子の柱密 度と定量的な関係があることがわかった。シュミッ トプレート上での銀河の検出限界は、1平方cm当 たりの水素原子数が10の21乗個である。Iwata et al. (1997)は、OASlSを用いて、可視光では銀河系内 ダストによって完全に隠された銀河の近赤外線での 検出を試みた。銀河カラーをもつ58個のIRAS点源 のうち16について銀河像を見事に捉えた(図5−14 参照)。銀河核の視線速度測定から、9,000km/sの ところに銀河群を見出した。 第5章 図5−13 銀緯−15度から+15度での全天の川領域での IRAS銀河の分布:円の中心に銀河系があり、外の円は視 線速度10,000km/sを、点線は5,000km/sを示す。 図5−14 OASISでみた銀河面の銀河