157 岡山での測光連星(食連星)の観測の強みは 188cmによる分光観測と91cmによる色別測光観測 を同時に行うことが可能ということであった。食連 星は分光的に観測すればそのまま分光連星でもある ので、同一連星の光度曲線と視線速度曲線の両方を 一度に獲得することができた。それらの解析から恒 星物理学における貴重な情報を直接求めることがで きたので、岡山観測所が果たしたこの分野への貢献 は測り知れないものがあった。また岡山での食現象 の観測データから恒星の物理量を導く過程で、最も 面倒であった光度曲線解析は、フーリエ変換法(北 村1965,1967)により比較的易しく精度良く行われ るようになり急激に進んだ。このフーリエ法は、そ の後現れた大型コンピューターを利用してRocheモ デルに基づく合成法(例:山崎1981)が出るまでは、 広く役立った。 1.長周期食連星の観測 主星が拡大大気を持ち、年オーダーの公転周期を 持つ食連星の多くは大気食現象を起こすので、食期 間中の観測から大気構造に関し他では得られない貴 重な情報が得られる。1962年以来、K型超巨星とB 型主系列星からなるZeta Aur(P=2.7年)、31 Cyg (P=10.3年)、32 Cyg(P=3.1年)の観測は分光、測 光ともに北村(1967,1972,1973)、清川(1973)、 斉藤(1973,1976,1988)、川畑(1976,1988)等 によって精力的に行われ、K型超巨星の大気構造に 関する多くの新しい知見を導くことができた。また M型超巨星とBe星から成るVV Cep(P=20.4年)で は、1976−78年の食を斉藤(1980)が91cmで測光 し、中桐(1977)、中桐・山下(1979)が30cm鏡で も測光し、周期116日の半規則的脈動の存在を認め た。分光は川畑が行い、川畑とともに西城(1981) が線輪郭を解析した。川畑・斉藤(1977)はさらに 禁制線視線速度をしらべた。もう一つの長周期連星 ε Aur(P=27.1年)はF型超巨星と“見えない伴星” からなる謎めいた星とされているが、1982−84年の 食の観測で斉藤等(1987)は、食中のスペクトル変化 から伴星の吸収線を抽出することができ、その質量 〜2M'を求めた。同様の結果がMcDonald天文台グ ループによってもその後発表され、F型主星はpost AGB であることが一致して示唆されるに到った。 研  究 測光連星の観測 北村正利 東京大学東京天文台名誉教授
158 2.Near-Contact近接連星の観測 近接連星進化に関しては観測結果をもとに、さま ざまな理論的考察がなされてきた。しかし今だにす べてのタイプを適確に説明できるにはいたっていな い。Rocheローブに対しnearly contact な近接連星 群はその一つである。岡山での観測をもとに精力的 に研究を進めてきたのは、UU Lyn(山崎他1983)、 GR Tau(山崎他1984)、RU Eri中村他1984)、BL Eri(山崎他1988)、DV Aqr(岡崎他1985)、RU UMi(岡崎他1988)、DD Mon(山崎他1990)等。 これらの連星系では光度曲線上に何らかの変動のあ るものが多く、また主星の中には異常低質量のもの があることも分かってきたが、現在も鋭意研究が進 んでいる。 3.Am連星の観測 Am(金属線)星は殆どが連星であることは良く 知られ、その原因が拡散理論によって理解されてい る。このAm星では金属の化学組成異常が星表面に わたり一様なのか、パッチ状に非一様なのかは、食 を起すAm連星を分光・測光同時観測することによ り始めて適確に研究することができる。観測したの は、WW Aur(清川他1975;北村他1976)、δ Cap (北村他1977)、AN And(北村他1982,1983)、RR Lyn(近藤1976)、IW Per(金1980)等である。そ の結果、Amという化学組成異常現象が星表面上か なり非一様に見られることが示されたのは興味深 い。 4.その他 近接連星の一種である激変星の一つAC Cncは岡 山観測で発見された(岡崎他1982;山崎他1983)。 188cm望遠鏡によるマルチ・チャンネル測光で得ら れた結果として、測光連星AB Casに脈動変光が重 なっていることの確認(安藤1980)、変光星BE UMa に食現象が発見され(安藤1980)、その解析から高 温準矮星の存在が示唆されたことは注目すべきであ ろう。以上の他、多くの特異食連星と接触型連星の 光度曲線や、Johnson色指数が観測され発表された (例,佐藤弘一等1978;北村1967)。また、観測され た光度曲線を含め、食外重力減光の解析から、接触 型と半分離型での質量放出の影響がその中に含まれ ており、質量放出率が観測的に求められた(北村・ 中村1987,1989)。この放出率はその後の理論的研 究(海野等1994)によっても裏づけられた。 第5章 図5−11長周期食連星Zeta Aur の食中にとったCa UK吸収線の特異輪郭