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この小文では、おおむね1985年以降、特に改組
(1988年)以降の岡山天体物理観測所における研究
の概要を記述する。なお、初期の頃の観測・研究の
状況については、東京大学100年史の該当部分を抜
粋して転載した。また、各分野の研究の詳しいレビ
ューは該当の研究者にご寄稿いただいているので、
それらをお読みいただきたい。以下では個々の論文
は特に明記しないが、その分野のレビューを参照さ
れるか、あるいは巻末の論文リストを参照されたい。
太陽の観測は65cmクーデ型太陽望遠鏡を中心と
して進められた。桜井隆氏を中心とするグループが
出版した論文は、データ集も含めて30編近くを数え
るが、近年はベクトルマグネトグラフ(P119、“岡
山の太陽観測”牧田貢氏 参照)を用いた太陽面の
活動領域の研究が主流となっている。しかしながら、
地上観測のウエイトが減ってきた太陽観測の世界的
な動向と相まって、近年は65cmクーデ型太陽望遠
鏡の利用は限られたものとなり、共同利用からも外
されている。
太陽系天体の研究は比較的研究者やテーマが限ら
れているが、渡部潤一氏を中心とするグループによ
って彗星の観測が精力的に行われている。観測手法
は夜空の明るさにより可視域のニュートン撮像が不
利になるにつれて、OASISによる近赤外撮像へと移
行した。特に、1994年の7月に起こったシューメー
カー・レビー第9彗星の木星への衝突という歴史的
なイベントでは、共同利用開始前のOASISを用いた
撮像観測で、世界でもっとも測光精度の高い貴重な
データを産み出した(図5−1参照)。
恒星の分光観測は初期の頃から188cm反射や
91cm反射望遠鏡利用の主要テーマであり、スペク
トル分類等が精力的に行われた。近年は高分散に重
点を移しながら、主に188cm反射望遠鏡クーデ分光
として継続されている。晩期型星については赤色巨
星の分光観測が多数行われ、特に炭素星の大気構造
や元素比量については重要な結果がえられた。また、
共生星や進化の後期にある星の質量放出や、惑星状
星雲への過渡期の現象についても、多くの研究成果
が挙げられている。
早期型星の観測では小暮智一氏、平田龍幸氏らに
第5章
近年の研究
図5−2 大質量星形成領域W51の近赤外線画像
図5−1 OASISが捕えたシューメーカー・レビー
彗星K核の衝突痕の光度曲線