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岡山観測文献によれば、岡山天体物理観測所開設
以来の高温度星分光観測論文は欧文文献で約140程
度である。この内、岡山天体物理観測所創設グルー
プ(大沢、西村、近藤、成相)による主として化学
組成異常星の研究が約20論文、次世代(石川、定金、
比田井、竹田等)の、化学異常星、通常星、超巨星
の化学組成研究が約20論文、北村グループによる近
接連星系の視線速度測定約10論文、京都グループ
(小暮、平田他)およびその後の安藤、神戸との共
同研究によるB型輝線星の研究約40論文、北大馬場
チームによるスペックル(分光)関係の10論文がそ
の主要部分を占める。
1980年代前半までは記録媒体は乾板であり、欧米
の数十cmの乾板による赤または青領域を一度に撮
るのに対して岡山クーデでは10cm程度の乾板を用
いて、波長域を分割、ないしは狭い波長域での研究
となったが、それでもその後のCCD検出器(2.5cm
程度)に比べると広波長域の為、低S/Nながら多数
の吸収線を利用した、成長曲線法による化学組成解
析のような研究に適していた。創設グループによる
研究は化学組成研究のみならず、当時盛んであった
恒星大気構造の研究を含む恒星物理の研究が行われ
た。事実、岡山188cm鏡クーデ分光器による最初の
論文は成相(1963)による水素欠乏星HD30353の
吸収線毛布効果の研究であった。また、小平による
白色矮星(シリウスB、1965)や高速度星HD161817
の酸素組成の研究(1967)もこの時期になされた。
大沢による244個のA型特異星に対する分光分類と
3色測光に基づくカタログ(1965)は岡山初期の最
大の成果である。また、91cm鏡Z分光器による197
個のMK標準星および77個の特異なスペクトルを示
す星を集録した分光アトラス(山下、成相、乗本
1977)はその端麗な分光写真、カヴァーする分光型
範囲の広さの故に愛用されている。
特異星の研究は、石川のδSct型星δDel(1973)、
20CVn(1975)の化学組成分析、定金のA型特異星
73 Dra の研究(1974)により次の世代につながっ
た。この頃よりモデル大気を用いた、いわゆる詳細
解析が標準的な化学組成分析手法として使われるよ
うになり、その後NLTEモデル大気に基づく解析も
行われるようになった。化学組成の研究は定金、比
田井、竹田等により、超巨星、通常星にまで対象が
第5章
星の分光観測:早期型星
平田龍幸
京都大学宇宙物理学教室助教授