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「東洋一」と称せられる口径1.9メートルの大望
遠鏡が、岡山県の西端にちかい「竹林寺山」に設置
されたのは、昭和35年の春、もう八年の昔になる。
標高372メートル、松林に囲まれたこの小丘は、
瀬戸内海に浮かぶ島々の上にはるかに四国の山なみ
を眺める景勝の地であるが、観測所開設と同時に禁
猟区に指定され、うぐいす・ほととぎすをはじめ、
おおくの野鳥の声をきき、深夜には、うさぎ、狐、
そしてまれには猪の姿をみかけることもある。
私たちの住居は、10キロはなれたふもとの町にあ
るが、観測の時には山上に泊まりこむ。一年の三分
の一は山上暮らしで、テレスコープ・ウィドウ(望
遠鏡やもめ)というのも天文学者の家族の宿命かも
しれない。
はじめに東京から赴任した3人の職員で出発し、
やがて現地採用の人々も交えて世帯が10名ほどに発
展したころ、一匹の小犬が山上の私たちの所にすみ
つくようになった。柴犬がかった雑種だが、顔だち
もりりしく、また観測所の夜食の残飯整理にも好都
合で、なんとなく飼主不定のまま飼いつづけるよう
になった。
大変に人なつっこい犬で、口移しにクッキーを与
えるK君にも、顔を見れば足蹴にするN君にも、足
跡をおうようにして尾をふりながらついてくる。コ
ロコロと肥えたその形からか、あるいは私の名前を
もじってつけたか、いつしか「コロ」という名前に
決まってしまった。
毎年三月はじめには、この十六万坪の構内の境界
ギャラリー
コロのはなし
石田五郎
元岡山天体物理観測所副所長
コロ