117 京都三次元分光器は、銀河など広がった天体の三 次元データ（空間二次元＋波長一次元）を取得する ための装置で、京都大学理学部宇宙物理学教室の装 置開発グループが中心になって開発したものです。 すばる望遠鏡での三次元分光観測装置のためのプレ スタディとして一号機の開発が始められ、現在、す ばる望遠鏡やマグナム望遠鏡での観測を目指して二 号機の開発が順調に進められています。一号機は岡 山188cm鏡で使うことを考えて設計され、製作され ました。ここではこの一号機の開発について書いて みたいと思います。 京都三次元分光器は、通常の撮像モード、スリッ ト分光モードの他に、ファブリーぺロー干渉計モー ド、マイクロレンズアレイ分光モードを備えた多モ ードの観測装置です。装置の立ち上げは、1994年京 都大学大宇陀観測所において、まずファブリーぺロ ー干渉計モードの試験観測からスタートしました。 岡山188cm鏡に初めて取りつけたのは、1995年の春 です。この時はファブリーぺローエタロンの制御が 不安定で、十分な観測が行えませんでした。この問 題を解決し制御系が完成したのが、1995年の秋のこ とです。エタロンコントローラーなどを望遠鏡に取 りつける制御系ラックも完成し、ようやく装置らし い姿になりました（図３−62，63参照）。1996年に は、エタロンの温度変化によるドリフトを抑えるた めの温度コントロールシステムも完成し、安定して 三次元データの取得が行えるようになりました。ま た、マイクロレンズアレイ分光モードは、1995年に 大宇陀観測所での試験観測を行った後、1996年に岡 山での観測をスタートしました。この時点で、よう やく全ての観測モードが揃いました。 観測装置 京都三次元分光器の開発 図3−62 観測に向け準備中 石垣 剛 北海道大学工学部助手

118 試験観測を経て、本格的に天文学的な観測を始め たのは、1996年からです。開発グループのメンバー の興味から、対象天体は活動銀河が多く、初期には ファブリーぺロー干渉計を用いてセイファート銀河 NGC1068、NGC4151を、マイクロレンズアレイ分 光を用いてセイファート銀河NGC2273を観測しま した。この初期の成果は京都で行われたIAUシンポ ジウムなどで発表されました。その後、1997年には 相互作用セイファート銀河Mrk266、NGC7592の観 測を行い、1998年からはLINER銀河、2000年からは 大光度赤外線銀河のサーベイ観測がスタートし、今 日に至っています。 一号機の開発や観測を通して、非常に多くの経験 を積むことができました。分光器の大部分は自分た ちで設計をしたものです。制御系ラックなど手作り のところも多くあります。観測をして初めて、ファ ブリーぺロー干渉計やマイクロレンズアレイ分光に おける多くの注意点に気付きました。これらの経験 は二号機の開発へと活かされています。手作りであ る分、見苦しい部分も数多くありますが、比較的自 由に改造ができるという利点もあります。新しい観 測装置の開発を行う際、実験を行える装置の存在は とても重要です。今後一号機は、観測によって成果 をあげながら、さらに新しい観測装置のための実験 装置としても活躍していってほしいと願っていま す。 以上は分光器開発開始以来の経過ですが、開発に 着手するまでの経過についても簡単に触れておきま す。すばるプロジェクトの装置開発検討の初期には、 宇宙物理のグループは、撮像分光器の製作の検討に 加わりました。撮像分光器の初期のコンセプトは、 近赤外領域や三次元分光の機能などが盛り込まれて いましたが、技術的問題、経費の問題、マンパワー の問題などから、次第に整理されて現在のFOCAS となりました。しかし、宇宙物理のグループとして は、すばるには三次元分光機能は是非備えるべきだ と考えていました。また、装置開発グループとして はメンバーが明確な問題意識をアイデンティティー として持たないと、グループの成長と確立は期待で きないと考え、独自の開発を行う道を選択しました。 すばるプロジェクトとしては、すばる建設の過程に おいて、大学における装置開発実験グループの育成 も、また、重要な課題と位置付けていました。この 方針にもとづいた、すばるプロジェクトからの大学 への基盤形成のための援助とエンカレッジによっ て、188cmのSNGの実績程度しかない宇宙物理のグ ループでしたが、小規模ではありますが、岡山を基 礎にして、ひとつの完結した観測装置を開発するこ とが出来ました。これにより、我が国の大学におけ る装置開発の基盤形成に、多少の寄与は出来たもの と考えています。また、世界の８メートル望遠鏡で 三次元分光装置を天文台装置として作っていないの は、すばるだけです。我々の二号機の開発を早く成 功させて、すばるの能力を更に引き出すことに寄与 したいと思っています。 最後になりましたが、岡山観測所の所員の皆様に は、装置の立ち上げや観測の際に、大変お世話にな りました。ありがとうございました。 第３章 図3−63 188cm反射望遠鏡に取り付けられた京都三次元分光器