Nod-and-Shuffleを用いた観測
- 2005/2/28-3/6のランでNod-and-Shuffleの試験を行いました
- 概念
近赤外の観測では検出器上での天体位置をずらしながら多数の露出を
行い、時間的に隣接するデータを用いて精度良くbackgroundを差し引く、
という手法を良く使います。
可視で、特に分光観測で短い露出をいくつも行うのはreadout noiseを大きくし
てしまうので、何度も読み出しを行う代わりにCCDの一部だけに光が当たるように
して、図のように露出を交互に行います。
そうすることで、readout noiseを抑えつつ同じような条件で取得したデータを
使ってのbackground差し引きを可能にする、というのがこの観測手法の目的です。
また、撮像モードで望遠鏡は動かさずに、違うフィルターでの露出を同じ条件
(シーイング、天体位置など)で行う、といった観測にも応用可能です。
- 生データからバイアスを引いてcosmicray(結構ひどい)を引いたもの
2005年3月6日観測。
観測天体はultraluminous X-ray source M81 X-9の周囲にあるバブル状の
nebula。
上半分と下半分ではスリット上でのオブジェクトの位置が変わっていて、
両方でガイドをしている。
スリット上での天体の移動量は約1'。
- overhead
縦軸はガイド星どガイド位置との距離。
網をかけてある部分が露出している時間。
一回の露出が終るとCCD上での電荷転送を行い、ガイドプローブを動かすと同時に
望遠鏡を同じだけ動かしている。
ガイドが安定したら次の露出を開始(現状では観測者が判断)。
左側はNGC4194を観測した時のもので、180秒ずつ10回の露出を行って、
15分積分×2のデータを取得している。
露出と露出の間の時間は、35, 42, 31, 56, 29, 27, 29, 39, 38秒で、
トータル326秒、20%程度のdead timeになっている。
ちょっと大きいので、一回の露出時間をもう少し長めにした方が良いかも
しれない。
望遠鏡を動かす時はまずSETで振り、Cont74IIから送られて来る座標を見ながら
GUIDEで微調整しているが、dead timeがどれくらいの長さになるのかは、
最初のSETでどの程度精度良く動いてくれるかでほぼ決まっている。
右側はM81 X-9の300秒×12露出で30分×2のデータを取得。
dead timeは105, 48, 30, 93, 46, 48, 48, 31, 38, 32, 39秒で、トータル
558秒、15%程度のdead time。
この場合天体のδが大きく(〜70°)、スリットが東西方向を向いているので、
SETの精度が悪い場合には微調整にかなり時間を取られる。
ちなみにδ方向のエンコーダーの振る舞いがおかしくなることがあって、
現状ではスリットを東西方向に向けた場合にしか正常にnoddingができない。
δの大きくない天体で300秒単位の露出であれば、dead timeを10%程度に抑えられる
と考えられる。
※1-2'程度の移動であれば、dead timeはほとんど変わらない。
GMOSなどでは通常各露出は60sec等なので、それに比べれば大分長くなっている。
そのため直接引き算しても(あるいは下に書いているようにrandom noiseを抑える
ためにmedian filterをかけてから引き算しても)、強いスカイ輝線や装置の効率が
低いところでは少し引き残しが出る。
が、通常の解析(IRAFタスクのbackgroundなど)と組み合わせることで、
気にならないレベルまで落とす事は可能である。
- 効果
M81 X-9に対して、180秒×20を一回、300秒×12を二回行った結果。
トータル3時間積分。
A : オブジェクトの位置を合わせて足し合わせ
B : nod-and-shuffleの各ペアを全く同じように波長較正まで行い、スカイと
して使うフレームではY方向に5pixelのmedian filterをかけてから引き算を
行ったもの。
C : 6枚の1800秒露出データとして通常の解析を行ったもの。
D : Cと同じだが、背景光を差し引く際に天体の周辺 1'を使用しなかったもの。
1'程度の大きさの天体を観測した場合にどうなるかを調べるため。
上のイメージで、天体の映っていない所で空間方向 16pixelの平均を
求めたもの。
Bではsystematic noiseが他の二つに比べて抑えられていることがわかる。
上記と同じで、平均ではなく標準偏差。
BCDとも大体同じような値を示しているが、Bは他の二つに比べて1割程大きく
なっている。
解析の都合上、random noiseが少し大きくなるのは仕方のない事なので、
波長域や視野内の場所によってどの解析法を使うかを考えた方が良いだろう。
背景光の差し引きを時間をかけて丁寧に行った場合、特に強い輝線のところを
除けば、BとCではそれ程大きな違いは出なかった。
ただ今回は、[OI]6300Aが一つのターゲットになっていてスカイ輝線が重なって
いるので、この強度に対する信頼性はBの方が上だろう。
Dのように1'程度の天体を想定した解析では、綺麗にスカイを引く事が
難しくなり、特にOI 6300Aや長波長側が重要である場合には、Nod-and-Shuffleを
行った方が信頼性が格段に上がる。
またCの場合でも強いスカイ輝線では明らかに引き残しが出てしまうため、
8000Aや9000Aもターゲットに入れた低分散の観測を行う場合には、別途検討を
行った方が良いかもしれない(現状ではそのようなグリズムがないので未検討)。
もう一つ、装置の視野を越えるような大きさの天体(>5')の分光観測にも
使用する事を考えていたが、テストした結果うまく行かなかったため今回は
断念した。
テストとして10'程度望遠鏡を動かし、座標を頼りに元の位置に戻すというのを
何度か行ったが、常に10"から20"程度のずれが生じてしまっていた
(座標上は1"程度の精度で戻って来ているのにも関わらず)。
これについては、dead timeが多少長くなる事を我慢すればガイドソフトの方で
対応する事も可能ではあるが、現状では手を付けられていない。
- 参考
GMOSのNod&Shuffleのページ
※特にここ